日本円以外のアジア通貨が総下落

アジアでは、リスク回避志向が強まっている投機的資金の流出で、円を除くアジア通貨が下落基調にある。ウォン安に慌てた韓国中央銀行は先々週末以降、断続的に介入しているが下落は止まらない。当局の管理通貨の様相の強い中国人民元まで下げ始めた。欧州問題の深刻化がアジアマネーの変調を生み、待機資金化して、日本の短期債などへのシフトが進んでいる。

韓国は5月初め以降の急激なウォン安に歯止めをかけようとウォン買い支えの為替介入を実施。朴宰完企画・財政相は「基本は経済ファンダメンタルに任せるが投機的な動きを抑えたい」と介入したことを明らかにした。韓国メディアなどによると、1ドル1,170ウォン割れの水準でウォン買いドル売りを繰り返しており、すでに15億ドルはドルを売ったもよう。しかし、先週末にかけ一時1,185ウォンを付け、歯止めはかけきれなかった。
輸出主導経済の韓国は08年のリーマン・ショック以来、ウォン安を容認して製造業の競争力強化を図ってきた。通貨安政策の修正ともとれる今回の為替介入は、緊急事態だ。一歩間違えば市場の不安をあおりかねない介入公表にまで踏み切るのは、昨年11月の欧州危機時の悪夢がよみがえっているからだろう。
国内主要銀行の規模が小さく、外貨確保の力が弱い韓国では、昨年の欧州危機の際には欧州銀行の米ドル供給力が細るにつれて、ドル不足が顕在化しかけた。97年のアジア通貨危機リーマン・ショック直後に起こった市場マヒが再来しかけたわけだ。

もちろん、景気減速感が強まる中でインフレ圧力も高まっており、輸入インフレにつながりかねない通貨安を警戒している面もある。緊急時に米ドルの融通を受ける中銀間のスワップ協定を日本、中国と結んでいるほか、外貨準備も史上最高水準と潤沢で、昨年のドル不足に陥りかけた際とは環境は違う。
しかし、介入に先立って当局は民間銀行に対して保有外貨を手厚くし最低3カ月分は手当てするよう「指導」するなど、ドル不足への警戒感が非常に強いのは明らか。今回の介入も、ウォン安に表れているキャピタル・フライト(資金流出)を芽のうちに摘んでおきたいとの思いが濃厚だ。財政相は非常事態措置(コンテンジェンシープラン)を準備していることも明らかにした。日本のすぐ隣では欧州問題への「臨戦態勢」が組まれている。

中国人民元は、長らく続いていたボックス圏(1ドル6.290-6.315元)が崩れた。5月14日以降はボックス圏外に下落。欧州問題をきっかけとする資金シフトによる下落圧力を当局が放置し、「元安政策」に転じたのではないかとの観測が広がっている。
5月10日公表の貨幣政策執行報告で「為替介入は頻度を減らす」と説明したことも、こうした観測の材料にされている。政策転換説の裏には中国経済の急速な減速がある。インフレ圧力が強く、利下げがしづらいなか、中国政府がリーマン・ショック後にもとらなかった元安を景気対策に仕立てようとしているのでは、との見方だ。

東南アジア諸国に、オーストラリア、インドなど、その他のアジア通貨もほぼ一様に下落基調だ。対外債権国で経常収支も黒字の台湾ドルだけは底堅く推移しているが、アジア通貨は欧州危機の影響を強く受け、ヘッジファンドの売りが始まっている。安全志向の資金は米ドルと円に向かい、「円では半年から1年の短期国債に流入している」(ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの村田雅志シニア通貨ストラテジスト)。実際、7~10年国債利回りがジワリと上がる中、短期債利回りはさらに低下している。

アジア通貨下落の背景にはアジア各国の景気減速もあって単純ではない。だが、足元の下落が欧州問題による投資家たちのリスク回避行動であるのは間違いない。
23日深夜にまで及んだ非公式な欧州首脳会議の後に、欧州全域での預金保証制度の検討が表面化するなど、欧州金融システムへの抜本対策が打ち出されるとの見方から、24日の欧米株価は反発した。スペイン主要銀傘下の英国金融機関からまとまった預金が引き出されたとの報道が出るなど欧州情勢は97年の山一証券倒産後の日本の状況に似てきており、早晩、包括的な対応策が打ち出されないでは済まない状況にはある。欧州情勢がリバーシのように反転する可能性も捨てきれない。
24日の欧州株価の反発にもかかわらず、先週末の日経平均株価は前の週末終値より低い8,580円で取引を終えた。これで8週連続で前週終値を下回る軟調相場が続いたことになる。
介入に踏み切った韓国財政相は「欧州情勢は8月までは落ち着かない」と見通しを述べている。少なくとも6月17日のギリシャ総選挙をまたいで6月28日の欧州首脳会議まで欧州問題は行ったり来たりの展開となるだろう。日本の企業収益は堅調だが、金融危機再来なら吹き飛んでしまいかねないだけに、株の軟調相場を反転させるだけの材料はなかなか見あたらない。