200年以上前の業績

日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は19日、首脳宣言を採択して閉幕した。最大の焦点だった欧州危機の封じ込めに向けて、ユーロ圏諸国が政府債務と金融システム不安の切り離しなど「すべての必要な政策措置をとる」との文言を盛り込み、欧州の自助努力を促した。
首脳宣言は「世界経済の回復は引き続き数々の課題に直面し、金融市場の緊張は高まっている」として、世界経済の減速に警戒感を表明。「強固で持続可能かつ均衡ある成長はG20の最優先事項」として、財政再建と成長の両立に向けて、各国が協調する姿勢を打ち出した。

とはいえ、手詰まり状況解消に先人の知恵を借りるためか、合衆国初代財務長官であり、10ドル紙幣でもお馴染みのアレクサンダー・ハミルトンの業績に関心が高まっている。独立した州が連合して憲法を制定し、国家としての体裁を整えた史実は、確かにユーロ再考に、有益な示唆を与えてくれそうだ。ボルカー元FRB議長は、「欧州はハミルトンを必要とする時を迎えているが、ハミルトンの役割を果たせる人物が見当たらない」と述べている。

独立戦争後、合衆国政府は当時のお金で5400万ドルと言う巨額の債務を抱え、加えて各州が抱える債務が2500万ドルもあった。金利支払いだけでも、政府一般歳出の7倍にも及ぶ火の車状態。価値を有する合衆国紙幣も発行できず。海外からの借金もできない難局の舵取りを委ねられたハミルトンは、連合体や州の負債を、新政府が新たに低い金利で調達する債券で肩代わりしようと考えた。しかし、メリーランドやペンシルバニアといった債務を返済した州にしてみれば、マサチューセッツノースカロライナといった未返済の州の借金まで負担させられるのはとても納得できない。また、退役軍人から二束三文で連合体債を買った投機家を儲けさせるだけとの批判も出た。議会で激しい議論が繰り広げられたが、首都の所在地を交換条件にした妥協が成立し、ハミルトンの新政府による債務継承案が承認される。
それ以前は、欧州王室の借金もデフォルトを頻繁に起こしていた有様だったので、債務継承は大きな成功をもたらした。新生合衆国が、債務返済履行の姿勢を見せたことで、海外投資家の信頼を獲得し、オランダを中心として欧州投資家の資金が大量に流れ込むようになり、額面の10-15%といった取引価格水準だったものが、額面に近づくまで急上昇。ハミルトンの目論見通り、調達金利も4.25%まで低下し、英国債の金利を下回る時期すらあった。

財政危機の解決が、独立を勝ち取るために不可欠であるとハミルトンが考えていたのは卓見だ。戦いの勝利では十分ではなく、財政に秩序を取り戻し、信頼を回復する事で、独立の目的が達成され国の将来に貢献すると述べている。また、過剰にならなければ国の債務は神の恵みだとも発言。金利支払いさえ約束を守れば、元本返済は必須ではなく、投資家は信頼できる国への債権なら喜んで再投資するとの認識に基づき、信頼できる国債は流動性のある資産として、輸送や取引が大変な金や銀よりも世界にとって貴重なものになると200年以上も前に看破していた。

さらに、ハミルトンは英国をモデルにした国立銀行作りにも取り組んだ。反対派が多数だったが、議会は憲法が定めた責務遂行のために必要かつ適切な措置を取れると言う理屈で、20年間の期限付きながら国立銀行設立の許可を得た。また民間投資家による運営を提案し、財務省に監督権限を与えたのも、政治家の運営では信頼が得られないとの発想からだ。ハミルトンは、大衆や大衆が選んだ政治家が、長期的な犠牲を強いるような政策を実行する能力に懐疑的だった。
ハミルトンの政策は、現状にも含意に富み、ユーロ共同債など連想しやすい。だがむしろ、米建国の父たちが意見対立による幾多の膠着状態を、債務継承を首都の場所での譲歩で認めさせるといった柔軟な発想による妥協案で切り抜けた交渉術こそ学ぶ必要がありそうだ。