大手証券3社そろってインサイダー

野村証券、SMBC日興証券に加えて、大和証券でもインサイダー取引につながる情報の漏洩が摘発された。下世話な推測として、野村、日興がやることを、大和がやらないなら、顧客も納得しまいとは言えただろうか。しかし、その通りに3社とも摘発されるとは恥ずかしい。
加えて、今回問題になったのは増資の情報だが、「増資=株安」と、企業のファイナンスが疑いもなく「売り」の情報とされていたことも情けない。本来の資金調達というものは、希少の収益拡大を目指すためにお壊れるものであるにもかかわらず、企業の成長が期待も信用もされず、株式価値の希薄化だけが確実にマイナス視されている。

投資の上で、インサイダー情報が有効であることについては、運用・証券業界でほぼ異論がない。だからこそ、インサイダー取引に規制がある。しかし、業界最大手の野村証券は今回のような情報漏洩が「恒常的」だったと報じられた。
証券会社の引受部門と営業部門の間には「チャイニーズ・ウォール」と呼ばれる情報の隔壁が存在する建前だが、これがしばしば有名無実になる。余談だが、チャイニーズ・ウォールとは万里の長城からイメージされたまじめな言葉らしい。しかし、「いい加減な仕切り」を意味する一種のスラングなのだろうと証券会社では思っている人もいるらしい。銀行部門と証券部門の社員が大部屋の中で一体になって働いている外資系証券会社では、当局の検査が始まる日を事前につかんで、その前日に部屋の真ん中にシャッターを下ろすという。
さて、引受部門と営業部門の社員は「同じ釜のメシ」を食う仲間どうしだ。部門をまたぐ人事異動もある。何よりも会社の儲けにつながるなら、情報を活用したいと共に思う。完全な独立性は、もともと期待し難い。

対策はあるのか。
一案として、処罰の意味合いも含めて、例えば野村証券を、引受を含む投資銀行業務専業の会社と、株式などの売買を仲介するブローカーの会社に分割するのはどうか。
しかし、投資家への販売力を引受部隊から切り離すと、証券会社の引受能力は弱体化する。結果として、ユーザーである企業のメリットを損なうことになりそうだ。
オーソドックスな別案は、関係する個々人のインセンティブ(誘因)を変えることだ。現在は、インサイダー情報を利用して取引を行った者が罰せられる仕組みだが、情報の漏洩者側にも強力な罰則の設定が必要だ。関与した者個人の刑事罰、経営者の管理責任の追及、会社に対する懲罰的な課徴金などが要る。
尚、ルール設定以前に、本件への重大な問題意識をメッセージとして発する意味で、業界最大手の証券会社あたりで、経営トップがきれいに引責辞任するのもいいことだ。初めて尊敬されるだろう。