政治リスクへの市場警戒は解けず

消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案が成立する見通しになったことを受け、9日の債券市場は、朝方には国債が買われ、長期金利が低下した。政局の混乱がいったん沈静化し、財政再建路線が維持されたことを好感したためだ。東京株式市場でも日経平均株価は一時、約1カ月ぶりに9,000円台を回復した。ただ、政治リスクがあらためて浮き彫りになっており、市場関係者は重要法案や政策の行方を注視している。

「非常に自然な流れだ。(民主、自民、公明3党の党首が法案成立に合意したとの)8日夜の報道を受けて戻ると思っていた」
9日午前9時過ぎ、大手信託銀行の債券トレーダーは東京都内の勤務先で、長期金利の低下を映し出す室内のボードを眺めながら、安堵の表情を浮かべた。
長期金利の指標である新発10年物国債の利回りは前日より0.015%低い0.780%でスタート。その後は売りも出て、終値利回りは前日と同じ0.795%だった。
自民党が3党合意を破棄し、法案が不成立になる可能性が浮上した7日には利回りは上昇、8日は一時0・810%と約1カ月ぶりの高水準となった。日本の財政再建が後退するとの懸念が広がったためだ。
成立が確実になったことで、市場では「欧州債務危機を除けば、金利を大幅に低下・上昇させる要因はない」(前出の債券トレーダー)との見方も出ている。

だが、大和証券の尾野功一シニアストラテジストは「一体改革法案以外の政治リスクはなくなっていない」と警戒する。予算の執行に必要な赤字国債を発行するための特例公債法案などは成立のメドがたっていないうえ、「解散の時期や総選挙後に安定した政権の枠組みができるかわからない」(尾野氏)からだ。
日本経済の将来を左右する重要政策の行方も不透明だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、早期の参加表明が求められるが、野田佳彦首相は民主党内の反対派に配慮し、明確な方向性を示していない。8月中に策定予定だった新たなエネルギー戦略も「脱原発」の声が高まる中、先送りが濃厚だ。
 再び政治の不安定化で金利が上昇する可能性もあり、市場の警戒感はくすぶっている。