シャープ社債で見えてくるリスク

シャープの経営不振は、国内社債市場が抱える課題を改めてあぶり出すことになりそうだ。同社が銀行からの借り入れに担保を差し入れ、既発の無担保社債が融資に劣後する事態が生じたからだ。

シャープが3日付で近畿財務局に提出した大量保有の変更報告書によると、みずほコーポレート銀行三菱東京UFJ銀行からの借入金の担保として、保有するパイオニアとネオスの株式を差し入れた。1日付の日本経済新聞朝刊が報じた「主力2行は8月31日、シャープに1500億円の追加融資枠を設定し、不動産や有価証券などで担保も全額取得した」という内容を裏付けた格好だ。
社債保有者から見ると、資金繰り不安を和らげる材料である一方、他の債務に担保が設定されたことで社債がデフォルトになった際の回収率は大幅に引き下がることが予想される。

無担保社債を発行した後の有担保融資という「後出しジャンケン」は認められるのか――。社債には他の債務に担保に付けることを制限するコベナンツ(誓約事項)を付けることができる。だが適用範囲を社債に限定し、銀行融資など他の債務を対象外とする場合が大半だ。融資などへの担保を制約すると、柔軟な融資の妨げになるリスクが生じるからだ。現存する6本のシャープ社債にも「担保提供制限条項」が付くが、社債間に限定される。
問題なのは融資のコベナンツに関する適時開示は、定量的な基準が定められていない点だ。シャープは大量保有報告書などで銀行借り入れへの担保設定が明らかになったが、通常はすぐに把握できない場合が多い。開示制度に課題を抱えていることを勘案し、社債は事実上、融資に劣後するとの見方もある。

社債管理者のあり方も問われそうだ。担保を設定した2行はシャープの主力行であると同時に、新株予約権付社債(転換社債=CB)の社債管理者でもあるからだ。
社債管理者は発行会社の財務内容の監視やデフォルト以降の債権保全・回収を担うが、具体的な権限の範囲が明確でない。過去にはマイカルが2001年9月に民事再生法適用を申請した際、社債管理者を務める主力行が直前に担保付き融資を実施していたことが明らかになり、利益相反の観点から係争に発展した事例がある。

最終的に誠実義務違反は認められないとの判決になったが、逆に無担保で融資をしていた場合、デフォルトに伴う損失について株主代表訴訟を起こされるリスクがあった。抱えるリスクが発行体から受け取る手数料に見合わないとして、社債管理者への就任を躊躇するという事態も生じているという。
社債管理者は本来、社債投資家を保護する制度のはず。だが社債の金額(最低単位)が1億円以上の場合は設置を義務付けられていない。社債管理者を置くことは発行体にとってコスト増にもなる。現状では大半の社債が非設置債となっており、制度の形骸化が指摘されている。
日本証券業協会が3年前に設置した「社債市場の活性化に関する懇談会」は4つの課題を議論している。このうちの2つがコベナンツと社債管理者だ。最善策が見いだしにくい議論だが、改善を進めていかないと、社債市場の発展を妨げることになりかねない。