EU圏内も格差社会へ

EU統計局が発表したユーロ圏の昨年第4四半期GDP速報値は、0.3%のマイナス成長となった。マイナスに落ち込んだのは09年第2四半期以来で、債務危機の影響が拡大しているとの見方もできるが、喧伝されている危機の深刻さの割には、底堅い印象も受ける。マイナス幅も予想を下回った。
国別ではイタリアが0.7%縮小し、2四半期連続のマイナスとなり明確な景気後退入り。ギリシャとポルトガルは1年を通して深刻な景気後退状態だった事が裏付けられた。スペインも0.3%のマイナス。ユーロ圏で優等生的存在であるオランダも、財政緊縮策の影響から0.7%減のマイナス。独も0.2%縮小したが、事前予想を上回り一時的な失速で終わりそうだ。一方、仏は輸出の好調で予想以上に健闘し、0.2%のプラス成長を実現した。

この数値の発表で、危機の渦中にある国を別にすれば、EUの中核地域は、深刻な景気後退に陥る事態は避けられるとの見方が台頭している。今後も、緩やかな成長と軽度な後退を行き来するジグザグ状態が続くものの、08-09年のような急な落ち込みは免れそうだ。マイナス成長だったドイツも、今年に入って企業の景況感が顕著に改善するなど、大詰めを迎えるギリシャ問題とは対照的にユーロ圏全体は安定してきている。
この安定化には、ECBが昨年末に実施した4890億ユーロ規模の銀行に対する長期資金の供給が貢献したようだ。金融面での下支えで、財政緊縮策の景気への悪影響が緩和されたのを受けて、ECBは今月末にも第2弾の資金供給を実施する。貿易収支も、昨年12月は、前月比で輸出が0.1%増加し、輸入が0.9%減少したため、貿易黒字は61億ユーロから75億ユーロに増加した。

しかし、安心できるような状況ではない。ギリシャの第4四半期GDPはマイナス7%で、出口が見えない。この状態では救済で合意しても、さらなる債務減免が必要になる可能性が高い。4月の選挙も波乱要因だ。景気後退入りのイタリアも前途多難だし、欧州を襲った寒波も景気の足を引っ張りそうだ。ムーディーズは、ユーロ圏6ヶ国の信用格付けを政府の取り組み不足を理由に引き下げた。ユーロ圏外の英国も債務危機の影響は避けられず、政府の財政緊縮策も相まって、第4四半期GDPはマイナス0.2%となった。イングランド銀行(BOE)は、ギリシャ問題の進展次第では深刻な影響を受ける可能性があるとして、500億ポンドの国債を購入する追加量的緩和に着手した。しかし、今年は1%、来年は1.8%成長を中心値として予想しており、警戒は必要だが景気回復に進み始めている。

ユーロ圏財政危機は、ICUでの集中治療には目途がつきそうだが、今後、長い闘病が必要となる。遅まきながら、周縁国も構造改革が進みだし、長期的には期待が持てても、効果が出るまでは時間がかかる。それまでの所得減少や失業の増大という痛みに耐えられるかどうかがカギだ。表面的な安定が却って、痛みを伴う財政規律の推進力を失わせる可能性もある。
また、域内格差も根が深い。OECD対独経済審査報告書は、ドイツの成長モデルの成功を称賛し、今後の課題は成長に必要な労働力確保だと指摘したが、他のユーロ諸国と置かれている状況の差は歴然だ。財政危機によるユーロ安の恩恵をドイツが独り占めし、域内格差は拡大している。通貨切り下げを封じられたまま、ドイツとの競争力の差を埋めるのは不可能に近い。統合の理念とは裏腹に、ユーロ圏一体でのGDPの意味というものはもはや失われ、各国数値のバラツキはどんどん拡大していくかもしれない。