命運を分けた判断とは

AIJ投資顧問に運用を委託していた厚生年金基金が存続の岐路に立たされている。この先運営に行き詰まっても、解散するには積立金を返還しなければならず、担当者は「解散もできない」と頭を抱える。一方で、AIJの運用実績を不審に思って解約、難を逃れた年金基金もあった。何が明暗を分けたのか。

AIJの運用実績や情報開示の状況に不審点を見抜き、解約に踏み切った厚生年金基金の担当者は、AIJの資料に不自然な点を数カ所見つけたという。
提示された商品の概要書には、未公開株や資産担保証券について「簿価で評価することもあり得る」と記載されていた。「100円で買ったものが5円の価値しかなくても、100円と評価されるのか」。担当者は不信感を募らせ解約を進言。この基金は、1年以上前に解約に踏み切った。
担当者は「億単位の資金を預かっているので慎重に見直した」と話す。

中小企業の業界団体などが母体の「総合型」と呼ばれる厚生年金基金では、AIJの浅川和彦社長らの説明を信用し、AIJを中心にした運用を組み立てていたところも少なくなかった。それだけに、今回の影響は深刻だ。
厚生年金基金リーマン・ショック後の世界的な株安や為替の影響を受け、軒並み資産を減らした。不足額を穴埋めできなければ、年金給付にも支障が生じる。
ある基金の担当者は「こんなに利回りが高くて大丈夫かと思ったが、何とか穴埋めしたいという気持ちもあった。そこにつけ込まれてしまった」と漏らした。
一方、甲信越印刷工業厚生年金基金の担当者は「基金を解散するとなっても、最低責任準備金が必要となり、このままでは解散もできない」と頭を抱える。

厚生労働省などによると、厚生年金基金を解散する場合、国に代わり、基金に納められていた厚生年金の保険料に相当する積立金「最低責任準備金」を、全国の企業年金基金などが加盟する「企業年金連合会」に返還しなければならない。だが、準備金のメドさえついていないのが現状という。
証券アナリストの松本弘樹氏は「簿価評価やリスクの分析をしっかり行っていたところは、AIJの不審点に気づいて解約できた。年金基金側も、加入者から貴重な資金を預かっているという認識を持つことが必要だ」と話している。