日本国債暴落へのシナリオはありうるのか(前編)

東日本大震災から1年が経ち、内外の格付機関が相次いで日本国債を格下げしてきた。巨額な政府債務による財政の硬直性、ねじれ国会による政治の停滞に、震災による政治・経済面での環境変化が加わり、日本国債の信用力への評価がさらに厳しくなっているためだ。
国内勢の分厚い需要に支えられ、長期金利は1%割れの低水準で推移しているが、海外ファンド勢が早期の経常赤字化などを手掛かりに、再び国債暴落ストーリーを描き始めたとの指摘も出ている。

世界でも有数の地震多発地帯であるインドネシアのスマトラ島。04年にM9を超える大地震と巨大津波で多くの死傷者を出した。その後もM7-9規模の地震が頻発、今年1月にはM7.3の地震が発生したが、ムーディーズはその1週間後にインドネシアの信用格付けを「Ba1」から投資適格等級の「Baa3」に引き上げた。
インドネシアの投資適格等級への格付け復帰は97年12月以来約15年ぶり。好調な個人消費と輸出に支えられ、年5%後半から6%台の安定した経済成長が持続。格付けが投資適格水準に引き上げられたことで、先進国中心に海外からの資金流入が加速している。政治的な安定性も増しており「経済規模が大きいBRICs諸国に引けを取らない成長期待が財政の弾力性を確保する大きな要因」(国内金融機関)となっている。

一方、日本国債は昨年の震災後、信用格付けや見通しの引き下げが相次いだ。大手海外格付機関のスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)が4月にアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更。ムーディーズ・インベスターズ・サービスは8月に「Aa3」とシングルA格まで一歩手前の水準に引き下げた。「身内」であるはずの国内最大手の格付投資情報センター(R&I)も12月、最上級の「AAA」から「AA+」に引き下げた。
同じ地震大国のインドネシアと好対照な動きを示す日本の信用格付け。その違いは財政や経済の弾力性だ。日本の国と地方と合わせた政府債務は国内総生産(GDP)の2倍となる1000兆円を突破。2012年度予算では歳入の約半分を国債でまかない、国債利払い費と償還費で歳出の24%を占める歪な構造となった。
財政の弾力性が低下している要因には、政権基盤の脆弱さがもたらす政策遂行能力の欠如もある。いわゆる衆参ねじれの構造の弊害だ。ねじれ構造下では、財政再建の両輪とされる歳出削減と歳入確保について「国民に強い負担を強いるような難しい政策を打ち出すことは困難」(S&Pソブリンアナリストの小川隆平氏)。「東日本大震災がなくても日本国債の格下げは免れなかったのではないか」とバークレイズ・キャピタル証券・チーフ公的セクター・クレジット・アナリストの江夏あかね氏は指摘する。

(後編へ続く)