日本メーカーの生き残り方

テレビCMの話である。フランスのカフェに若い日本女性が座っている。彼女の目の前には、漫画雑誌片手にオタクオーラ発散のフランス男。
「マンガは世界に誇れる日本の文化じゃないか。なぜ、日本人は個性を大事にしないんだ?」
フランス男はそういうなり、漫画雑誌の表紙に描かれたものと同じロボットスーツをいきなり取り出して「これを着てくれ」と迫る。
そんなコミカルなシーンが終わると、カフェの日常シーンのなかにある時計やパソコン、携帯電話にエスプレッソマシンなど、あらゆるデジタル機器が強調される。それらすべてに「東京エレクトロン」の文字が漫画の吹き出しのように張り付けられている。こんなナレーションが続く。
「漫画と同じように世界に行ったのは東京エレクトロン。わが社と無関係な半導体はこの世にほぼ存在しません」

世界の半導体メーカーのなかで、東京エレクトロンの製造装置を一切使っていない企業はおそらく存在しない。圧倒的な存在感を発揮している同社が、昨年10月に新工場を完成させた。彼らが選んだ場所は、仙台の隣接地だった。
コスト削減のためではない。開発から生産まで、一気通貫でやりぬく世界最先端の工場を創り出すために、あえて選んだのが仙台だった。
背景にあったのは「開発型企業の誘致以外に地方都市の未来はない」という仙台市の明快な産業政策だった。しかも仙台には実業に役立つことを「建学の精神」とする東北大学があった。
事実、東北大学の半導体研究は世界屈指のレベルであり、東京エレクトロンも長い間、東北大学との共同研究を続けてきた経緯もあった。
「半導体製造装置は2、3年で技術が様変わりする特殊な事業分野です。だからこそ日本が世界をリードできる。コストダウンを目的に海外移転するなどあり得ない。開発と製造の距離が遠くなり、さまざまな面でスピードが遅くなる。当社は開発から製造まで、拠点を日本に集約していこうと考えている」

東京エレクトロンの東哲郎会長の発言は、世の中の常識とは真逆だ。
「先端技術というものは複合技術だ。化学、光学、マテリアル(素材)、エレクトロニクス、メカトロニクス、ソフト開発、将来的にはバイオも入ってくる。そこで問われるのは技術の蓄積です。それを持っているのは日本と米国だけだ」
1ドル80円の超円高は日本を瀕死のふちに追い込んだ。国内の雇用は減少し、産業空洞化は確実に進んでいく。しかし、日本は世界に例を見ない複合技術の集積地である。メイド・イン・ジャパンが生き残る余地は大いに残されている。