一段の金融緩和に踏み込む日銀

日銀が一段の金融緩和に踏み込んだ。資産買い入れ基金の増額は予想を下回ったが、長期国債の買い入れ10兆円増額や対象国債の年限拡大に、政府・与党から高く評価する声が相次いだ。日銀のデフレ脱却に向けた「本気度」が評価された。
民主党前原誠司政調会長も、日銀が事実上の物価目標の導入を決定した2月14日とはうって変わって前向きな評価に転じた。政府・与党から巻き起こった「金融緩和」期待はいったんは収束の兆しがみえてきた。
当面は2月から始まった追加緩和の政策効果を見極めることになりそうだが、政府・与党は、早期のデフレ脱却に向けて、「積極的かつ果断な金融政策」の継続にもくぎを刺しており、市場動向や経済情勢次第では緩和圧力が再燃する可能性は否定できない。

「日銀の(デフレ脱却に向けた)覚悟をみるために、何年までの長期国債を買うか注視する」──。決定会合直前の25日、民主党でマクロ経済政策について政府・日銀と意思疎通を重ねてきた財務金融部門会議の座長、大久保勉政調副会長はロイターのインタビューにこう答えた。大久保氏は、基金の増額以上に買い入れ対象国債の年限長期化が大事だとし、出口を探って2年以内の国債しか買わない日銀の本気度が、買い入れ国債の償還期間の長さで図れると迫っていた。
基金の増額は5兆円と市場の予想を下回ったが、日銀は長期国債の買い入れ枠を10兆円程度増額し、買い入れ対象国債の年限を3年以下まで延長した。ETF(指数連動型上場投資信託)やJ─REIT(不動産投資信託)などリスク性資産の買入れ増にも踏み込んだ。
前原政調会長は「長期国債の買い入れを10兆円増やし、われわれが主張してきた買い入れ対象国債の残存期間を2年から3年にしたことも評価できる」と高く評価し、決定内容が与党の意向にも沿う形だったことをにじませた。

2月14日に日銀が事実上の物価目標の導入にかじを切り、その実現のために基金の増額に踏み切った時、決定内容に一定の評価をしながらも、「大事なのは結果だ」として、追加緩和姿勢を緩めなかったのとは大きな変化だ。
政府からも、「2月に続き思い切った対策をとってもらった」(安住淳財務相)、デフレ脱却に向けた「政府との取り組みと連携の取れた対応を大いに評価する」(藤村修官房長官)、「デフレ脱却に向けて適切な措置だった」(古川元久経済財政担当相)など高く評価する声が相次いだ。

「展望リポート」で示された消費者物価の見通しは2013年度に0.7%と、日銀が事実上の物価目標とする1%には届かない。決定内容が不十分ではないかとの見方に対して、藤村官房長官は「市場動向や経済情勢を踏まえての適切な判断だ」と否定。安住財務相は「積極的な措置を講じていくことは為替市場の安定にも良い影響をもたらす」と円高是正への効果を期待した。
ただ皮肉にも市場では、2月のように緩和を評価した円安、株高とはならなかった。2月時点とは市場を取り巻く環境に違いがみられるほか、緩和自体は織り込まれていたことからサプライズがなく、「緩和姿勢だけでは限界がある」(外為市場関係者)との声も聞かれた。
市場の反応が鈍く、逆に株安、円高が進むようなら、日銀への政治圧力がぶり返す可能性は十分ある。