日本政府は英国の失敗を知っているのか

ロンドン・オリンピックまであとひと月足らず。英国全土では聖火リレーなど華やかなオリンピック関連行事で全土がわいているが、経済社会はかなり暗いムードに覆われている。何しろ、若者の失業率は80年代以降最悪の22%前後に高止まりしている。実質経済成長率も「オリンピック特需」にもかかわらず1%に届かない水準でで推移している。実は英国はリーマン・ショック後の付加価値税(消費税に相当)増税で世界に先駆けたのだが、結果は大失敗でその最大の被害者が若者なのだ。

日本国内では「英国に倣え」と財務官僚が騒ぎ立てて増税論議をあおったいきさつがあるが、恐るべき弊害には知らぬふりだ。

 

英国の増税策の概要をみよう。10年5月に発足したキャメロン保守党・自由民主党連立政権はさっそく付加価値税率17.5%を11年1月から20%に引き上げる緊縮財政政策を決定した。他にも銀行税を導入するほか、株式などの売却利益税の引き上げ、子供手当など社会福祉関連の予算削減にも踏み切った。

他方で法人税率を引き下げ、経済成長にも一応配慮した。こうして国内総生産(GDP)の10%まで膨らんだ財政赤字を15年度までに1%台まで圧縮する計画なのだが、このまま低成長と高失業が続けば達成は困難だ。

 

窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策である。BOEといえば、世界で初めて金の裏付けのない紙幣を発行した中央銀行だ。

BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込んでいる。マネタリーベース(MB)とは中央銀行が発行した資金の残高のことである。BOEは08年9月の「リーマン・ショック」後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切ったが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していた。インフレ率は5%前後まで上昇したが、そんなことにかまっていられず、今年5月にはリーマン前の3.7倍までMBを増やした。幸い、インフレ率は需要減退とともにこの5月には2.8%まで下がった。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっている。

しかもポンド札を大量に刷って市場に供給するので、ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいる。

 

ここで話を日本に転じる。衆院で消費増税法案が採決され、電力料金引き上げや来年からの東日本大震災復興増税などに加え、家計に負担がのしかかるが、さっそく懸念されるのはデフレ不況の深刻化である。

英国のお札大量発行は、増税に伴う経済災害を最小限に食い止める大実験になるかもしれない。政府と日銀、さらに増税3党はもっと英国に注目すべきである。