東証のアローヘッドが倍速化

瞬きを1度する間に100回以上の株式売買注文を受け付ける──東京証券取引所の高速売買システムが7月17日、「超」高速化され、稼働を始めた。

東証の売買コンピューターシステム「アローヘッド」。システムに注文が入ってきてから、それを認識し、注文受け付けの通知を発注者に返すまでの時間は1ミリ秒以下だ。もともとの2ミリ秒が倍速モードになった。

 

都内某所。テロに備え、東証が住所の公表を控えているアローヘッドの収容施設。震度7の地震にも耐える頑強な施設に足を踏み入れると、目を引くのは、アローヘッドに接続された約200台ものサーバー群だ。高さ2メートルの専用棚に整然と並び、怪しい光を放っている。

サーバーを所有するのは国内外約20社の証券会社だが、証券会社からサーバーを借り、そこから実際に売買注文を出している業者は別にいる。HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=高頻度取引)の使い手──コンピューターによる自動売買(アルゴリズム取引)で、ミリ秒単位の注文を繰り返し、収益を細かく積み上げていく超高速取引業者だ。

低コスト化を狙った注文の自動化、ライバルを出し抜くための高速化、思い通りの価格で約定するための小口化。3つの欲求を極限まで突き詰めたのが、HFTという売買手法である。

 

超高速取引業者の生命線はスピードだ。東証がアローヘッドと同じ施設内にサーバーを置き、業者の便益を図っている(東証はこれをコロケーション・サービスと呼んでいる)のは、アローヘッドまでの注文到達時間をわずかでも短縮するため。大金を投じアローヘッドの反応速度を上げたのも、彼らの注文を遅滞なくさばくためだ。

海外の取引所を見渡せば、売買システムの超高速化はミリ秒を越え、マイクロ秒単位の競争に突入しつつある。

実際に超高速取引を手がけているのは海外ヘッジファンドや、自己資金で投資するプロップ・ファームといわれる海外投資会社だ。関係者の話を総合すると、日本市場への参入社数は40-50社で、このうち大口投資家は4-5社。米国のゲッコーやシタデルグループ、ミレニアム・マネジメントなどの名前が挙がる。

東証の斉藤惇社長は、超高速取引業者による売買代金が、東証の売買代金全体の「約4割を占める」までになったと明らかにした。ニューヨーク証券取引所のこの比率は5割以上とされる。世界中の市場で、短期のさや取りに徹するごく一握りの投資家が異様なまでの存在感を発揮している。

 

米欧では、そんな超高速取引を規制する動きが出始めた。その余波で、相対的に浮上しつつあるのが日本だ。「日本で新たに取引を始めたいという業者は多い」。6月半ばにパリとロンドンに出張したドイツ証券の亀井雄也ディレクターはこう語る。今後、新顔の参入が相次ぐ可能性が高い。

超高速取引業者は市場に流動性を提供する一方で、その異形の売買手法は、市場の値動きに影響を及ぼし始めている。もはや、個人投資家など眼中にはない。