毛紡績最大手のニッケが100円ショップ事業に参入

毛紡績最大手のニッケが100円ショップ向け商品の開発・卸に参入し、業界の注目を集めている。さまざまな分野で多角化を成功させてきた同社だが、羊毛とは接点がなさそうな100円ショップ事業で成算はあるのか。しかし、意外にも本業とのシナジー(相乗効果)で、有力ビジネスに育ちつつある。

 

大阪府枚方市京阪電気鉄道枚方市駅からタクシーで10分あまり。企業の研究所や工場が集中する「枚方東部企業団地」の一角にこぢんまりした倉庫と社屋が現れる。昨年3月、ニッケグループの傘下に入った友栄の本社だ。

「もっと薄利多売のビジネスだと思っていた」

ニッケグループから送り込まれた石井徹男社長は当初、友栄の意外な収益力に驚きを隠せなかった。

友栄の11年9月期の売上高は7億6千万円、12年9月期は8億円弱を見込む。利益は非公開だが、石井社長は「単月の赤字はなく、卸売業として安定して利益を生み出している」と打ち明ける。

 

生産コストの安い中国やベトナムなど東南アジアのメーカーから製品を輸入するほか、プライベートブランド(PB=自主企画)商品を開発し、100円ショップチェーンに卸している。なかでも使い捨ての紙コップやストロー、アルミ鍋、割りばしなどアウトドア用品、パーティー用品の品ぞろえが豊富という。

ニッケグループが友栄を買収したのは、証券会社から「後継者がおらず、事業売却先を探している100円ショップ卸会社がある」と打診されたのがきっかけ。ニッケ側も「デフレの申し子」としての100円ショップ事業に興味を持ち、買収交渉はとんとん拍子で進んだ。

毛紡績最大手のニッケの本業とはまったく関係なさそうだが、「毛糸を100円ショップで販売できるかも」(石井社長)との思惑があったようだ。ニッケの毛糸は1玉800-1,000円程度の高級品が主流だが、子会社で1玉100円の新製品を開発し、今年7月から友栄を通じ、100円ショップへの納入を始めたところ、早くも好評を博しているという。「毛糸の新たな販路も開拓でき、シナジーが出ている」と石井社長は胸を張る。

 

とはいえ、今や「100円ショップ戦国時代」といわれるほど競争が激化しており、「作れば売れる状況ではなくなった」。もともと原価を切り詰めた商品とあって、100円ショップ各社は他社との差別化に四苦八苦している。

友栄も、パッケージにひげ面のワイルド風男性のイラストを入れたプラカップを発売するなど知恵を絞ってきた。このプラカップは人気商品となり、これまでつきあいのなかった100円ショップチェーンとも取引を開始できたという。仕掛け人の野田朗・営業開発課長は「味の良さだけでなく、男らしさを前面に打ち出したパッケージで評判となった『男前豆腐』を参考にしました」と明かす。

 

野田課長は競合の100円ショップではなく、東急ハンズなどの雑貨店を見て回って旬のヒット商品を探っているとか。「悪かろう安かろうではなく、『こんな便利でおしゃれな商品が100円ショップにあるなんて』と思われるのが理想ですね」と熱く語る。

実は、野田課長は友栄の創業家出身だが、経営には興味がなく、オーナーだった父に対し家業の売却をすすめた。ニッケグループに買収されてからも、好きなクリエーターとして残った異色の経歴を持つ。

ニッケグループの傘下に入って約1年半。野田課長は「社員の役割分担が明確になり、開発の仕事に集中できるようになった」と顔をほころばせる。

 

このほか、100円ショップ向け商品をニッケの販売網を使って業務用に展開できないか検討中。例えば、ニッケは日本航空全日本空輸に乗客用毛布を納入しているが、友栄の紙コップやプラコップも提案したところ、反応が良かったという。

友栄は、15年9月期までの3カ年で売上高を10億円に引き上げる目標を掲げている。毛紡績大手と100円ショップ関連の組み合わせは、予想以上のプラス効果を生み出している。