12年度日本経済の政府の見方

昨年は東日本大震災でわが国の経済活動は深刻な打撃を受けたが、寸断されたサプライチェーンは官民挙げての復旧・復興努力を通じて急速に立て直しが図られ、景気は持ち直しに転じた。
不安解消に時間を要しそうな欧州圏の債務問題や高止まりしている円相場など先行きに予断を許すことのできない要因を抱えてはいるものの、12年の日本経済は緩やかな回復局面が見込まれている。11年度の累次の補正予算の効果もあって、徐々に本格化してくる復興需要が成長を支えることになりそうだ。

政府が示した経済見通しによると、12年度(12年4月-13年3月)日本の国内総生産(GDP)の実質成長率は2.2%程度と、0.1%のマイナスが見込まれる11年度から2期ぶりにプラス転換する見通しである。実質GDPの増減にどれだけ影響したかを示す寄与度は、個人消費などの民間内需が1.6%分、政府支出である公需は0.2%分、外需が0.4%分の押し上げとなっている。生活実感に近い名目GDPの伸び率は2.0%程度を見込んでおり、名目GDPが実質GDPを下回る「名実逆転」は解消できず、依然としてデフレが続くことになるが、名目と実質GDPとの差は一気に縮まることになる。
政府見通しでは、本格化する復興需要を背景に民間設備投資の着実な伸びを見込むほか、民間住宅投資の高い伸びを見込んでいる。さらに、11年度第4次補正予算案に盛り込んだエコカー補助金で自動車の購入が増加し、個人消費を下支えすると想定している。世界経済の緩やかな好転の中で輸出が着実に増加する一方、輸入は緩やかな増加にとどまることから外需が増加すると見ている。

ただ、政府が示した見通しは民間20社の予測(日経新聞集計、平均1.8%増)より高いものとなっている。この差は、輸出に対する見方の相違によるところが大きいようだ。12年度の輸出に関して、政府は6.5%の伸びを見込んでいるが、民間の調査機関では2-3%の伸びにとどまるとの見方が多い。政府見通しは「世界経済の緩やかな好転」を前提としているが、現時点では欧州圏の債務不安は解消に向かって進んでいるようには見えないし、その影響がアジアなどの新興国経済にも広がる懸念を完全には否定できない。
イタリアやギリシャの国債が大量に償還を迎える1-3月に、不安を後退させるような有効な手立てが打ち出されないようだと、政府の見通しは下振れる可能性も大きいだろう。
また、前年度比1.1%増と緩やかな伸びを見込んでいる民間最終消費支出については、消費税の増税論議や株式市場の低迷などが及ぼす影響が懸念される。「街角景気」とも呼ばれる景気ウォッチャー調査の推移を見ると、震災後に急速な回復を見せたが、消費動向判断の分かれ目となる50を一時的に超えた後は、低下傾向を見せており、消費心理の回復が限定的であることを示している。

さらに、電力の使用制限や値上げなども消費を下押す材料になりかねない。民間の設備投資は、東日本大震災からの復興需要による後押しが見込まれるが、円高が企業の投資マインドを悪化させる影響が懸念される。
一方で、住宅版エコポイントの再開や被災者の生活再建で民間住宅投資は高い伸びが期待できそうだ。全体として12年の日本経済は、緩やかな成長が見込まれるものの、内外に不透明要因を抱えており、場合によっては金融・財政両面での機動的な政策対応が求められる局面も有り得る1年になりそうである。