今年も人気の個人向け社債

低金利や株価低迷を受け、個人投資家向けの社債発行が今年も人気だ。個人の金融資産は銀行に預けても金利が低い上、世界的に株価が値下がりしており、少しでも利率の高い社債人気が高まっている背景がある。発行元の企業にとっても、資金調達先の多様化による安定経営というメリットがある。

東京スカイツリーは知っていてもスカイツリーの運営会社の名前を知らない人は多い。社債で企業の知名度を高め、将来は株主になってもらえればいい。」
個人向け社債「東武スカイツリーボンド(通称)」を31日に発行する東武鉄道財務部の山本勉課長は、こう期待する。
同社債の年利回りは0.69%で、0.1%以下が中心の銀行預金に比べてかなり魅力がある。同社は毎年1回個人向け社債を発行しているが、今年はスカイツリー効果もあって、申し込みも順調だという。
1月は、小田急電鉄やSBIホールディングス、常陽銀行なども個人向け社債を発行し、業種も拡大している。
昨年は社債全体の発行額が前年比約1兆3千億円減った中で、個人向け社債は1兆3102億円で2年ぶりに増え、前年の約1.6倍に膨らんだ。社債全体に占める個人向けの割合も、15.8%(昨年は8.5%)と存在感を増している。

大和総研資本市場調査部の太田珠美研究員は「株式投資はやらないが、社債なら買いたいという個人投資家が増えている」と話す。
個人向けの社債発行が相次いでいるのは、膨大な個人の金融資産が満期を迎えているためだ。昨年、一昨年には、ゆうちょ銀行の定額貯金がそれぞれ数兆円規模で満期を迎えたほか、7兆円規模で発行された個人向け国債が本格的な償還を迎え、銀行預金などに滞留。昨年から今年にかけて、利回りがいい社債に資金が流れているという。
社債を取り扱う金融機関が、苦戦する法人部門をカバーしようと「個人向け部門を強化している」(野村証券シンジケート部の今井一之課長)ことも追い風になっている。
発行企業側も、欧州債務危機でリスク回避の動きを強める機関投資家に代わり、幅広い個人投資家から資金を集めることで経営基盤を強化できる利点がある。個人向け社債の発行は勢いを増している。