流行らないコメ先物取引

東京穀物商品取引所(東穀取)などによるコメの先物取引が72年ぶりに復活してから来月で半年を迎える。現在は試験上場で、来年8月の本上場を目指すが、取引量は目標を大きく下回っている。東穀取は農家や卸会社など現物のコメを扱う「当業者」の参加を増やしたい考えで、冬のうちにセミナーなどを開催し、取引のメリットの説明に余念がない。コメ取引価格の透明性確保を最大の目的として始まった取引だが、本上場に向けては5月の田植え時期に参加者を大きく拡大できるかが正念場となりそうだ。

「70年も眠っていたのだから起き上がるのは大変だよ」と東穀取の渡辺好明社長は、取引量について苦戦を認める。1日の取引目標は5,000枚(1枚は玄米で6トン)だったが、これまで目標を超えたのは取引開始翌日の昨年8月9日(6,765枚)だけ。その後はほとんど1,000枚以下で推移している。
2年間の試験上場期間の取引状況は、農水省が本上場の可否を判断する材料になる。認可基準は「十分な取引量が見込まれる」「生産・流通を円滑にするために必要かつ適当」の2つ。「十分な取引量」について農水省の担当者は「定量的にこれ以上、ということはない。総合的に判断する」と説明する。実際、東穀取に本上場している小豆先物も1日の取引量は数百枚レベルで、コメが極端に少ないわけではない。
だが、渡辺社長は「不十分」と言い切る。取引量が少ないと価格が変動しやすく、リスクを嫌う農家が参入しにくいからだ。取引量を増やせば、さらなる取引参加者を引きつける好循環につながる可能性もある。

農水省は先月、コメ先物に関する初の「シーズンレポート」をまとめた。取引参加者は大きく分けて、利ざやを狙う投資家と、経営の安定につなげたい当業者だが、レポートでは取引に占める当業者の割合が11月末で13%にとどまると指摘。3割前後のトウモロコシや小豆と比べ低さが際立ち、「当業者の参加増が重要」(資産運用会社の担当者)という意見が根強い。
ただ、流通米の約6割を扱うJAグループは「生産現場を混乱させる」とコメ先物に反対だ。現物価格下落などのリスクを回避するというメリットが大きいのは大規模農家や農業団体だが、現在のところ参加者はほぼ非農協系に限られている。
東穀取はこれに風穴を開けようと必死だ。
試験上場の取引開始は田植えが終わっていた昨年8月だったため、農家が先物取引を経営計画の中に織り込み、米価下落へのリスク回避機能を活用することができなかった。ただ、今年は5月の田植え時期には収穫期に当たる5、6カ月後の価格が出ているため、「先物の真価が出てくる」(渡辺社長)との思いがある。このため、先月は岩手県など全国6カ所で説明会などを開催した。

地方のJAでは先物の活用を模索する動きも出てきた。秋田県のJA大潟村は8月に勉強会を開いたほか、組合長が個人的に取引に参加して状況をブログで報告。「農家にとって米価のリスク回避策は必要。コメ先物は有効な手段」と訴えた。福井県のJA越前たけふも参加の検討に入っており、こうした例を今春までにどれだけ広げられるかが本上場に向けた鍵となる。
一方、東京証券取引所大阪証券取引所の統合や、政府の「総合取引所」法案提出方針など取引所の再編をめぐる動きが加速。東穀取はコメ先物試験上場の直前、東京工業品取引所との市場統合を白紙撤回した経緯がある。本上場が実現するかどうかが、取引所再編にも影響を与えるのは必至だ。