日本国際バブルの崩壊は18か月以内に起こる説(前編)

日本の公的債務は間もなく1000兆円を超える見通しで、財政問題はのっぴきならない状況にあるという認識が広がっている。欧州を揺るがす債務危機が日本に波及するリスクはないのか。「日本売り」を公言する米有力ヘッジファンド、ヘイマン・キャピタル・マネジメントの創業者、カイル・バス氏に日経ヴェリタスが取材した記事があったので、要約してみた。

──日本国債に以前から警告を発しているが…。
「過去20年間を振り返ってみよう。この間、日本では名目国内総生産(GDP)が減り、株価はピークから8割下げた。住宅価格も7割の下落だ。そんななかで、唯一価値を失わなかったものがある。日本国債だ。長期金利は低下(価格は上昇)を続け、日本国債は最も運用成績の良い金融資産だった。米国でも、ほぼすべての人が絶対に下がらないと信じ込んでいた住宅という資産があった。しかし、米国の住宅市場のバブルは崩壊した。果たして日本国債の安全神話はずっと有効なのか。答えは明らかにノーだ。」

──いつ日本の危機が顕在化するとみているか。
「国債バブルの崩壊が今後18カ月以内に起きるとにらんでいる。日本の長期金利の上昇と為替の円安に備えたポジションをすでにとっている。日本の公的債務はGDPの229%と世界で最悪だ。11年度の税収はざっと41兆円。これに対し国債の利払いが11兆円にも達している。(試算では)金利が今の水準より1%上がるだけで、10兆円規模の利払い負担が増える計算になる。これが2%の上昇となれば、計算上は日本の財政が持続できなくなり、実質的に破綻することもあり得る。」

──日本の国債バブルの崩壊はずっと言われてきたが、なぜ、今なのか。
「それはこれまでにない深刻な構造変化が起きているからだ。震災後の原発停止で割高な液化天然ガス(LNG)の輸入が急増し、日本は昨年、31年ぶりに貿易赤字になった。今年も状況の好転は期待しにくいだろう。自動車や電機などの製造業は拠点をアジアに移している。生き残りを賭けた企業の動きはもう後戻りできない。私は14年半ばに日本が経常収支でも赤字になるとみている。12年度に財政赤字のGDP比は約10%まで上がるだろう。日本の人口は過去3年半で290万人も減り、少子高齢化もいよいよ深刻になっている。」

──財政の立て直しに向けた日本政府の取り組みはどうみているか。
「日本の政治には大きな問題がある。増税を打ち出した首相はみな強烈な反対にあい、退陣を迫られる事態を繰り返してきたからだ。野田政権は消費税の引き上げの方針を明確にした昨年12月、支持率が一気に下がった。増税が実現する可能性は低いと言わざるを得ない。日本の財政が持続可能でないのは明らかだ。例えば、ある日本の当局者に『ギリシャのデフォルトがあったとして日本はどうなるか』と聞かれ、『遅くとも2、3年で同じ危機が起きるよ』と言うと、『いやそんなことはない。5-7年は大丈夫だ』と言われた。時期はともかくとしても、日本の関係者もいずれ本格的な危機に直面せざるを得ないと思っているのだ」

──日本政府の12年度予算案に対しても、ずいぶん厳しい見方をしているようだが。
「これほどの茶番はない。社会保障費は一般会計ベースで約26兆3900億円と前年度から8%減っていた。一般会計の総額も90.3兆円と前年度を下回り、一見すると立派な予算案だ。ただこれには看過できないトリックがあった。一般会計から切り離し、『年金交付国債』なる耳慣れないものが登場していたのだ。これは基礎年金の国庫負担分2.6兆円を、将来の消費税増税で償還して穴埋めする仕組みだ。まだこの世に存在せず、実現する保証もない増税をあてにして交付国債を発行する。こんなことが許されていいのだろうか。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは新規国債発行額を約44兆円に抑えたという日本政府の主張はナンセンスだと断じたがそれは当然のことだ。特別会計で別枠扱いした交付国債や震災復興債を合わせると総額は約50兆円に達し、財政赤字のGDP比は10%を超えるのだ。見かけをとり繕ってやりすごそうとする日本政府に、もはや何の信認もない。」

(後編へ続く)