ドコモ、スマホの憂鬱

NTTドコモは26日、25日に発生した携帯電話の通信障害の原因について、通信料が新設した設備の能力を上回ったためと発表した。真犯人は無料通話アプリで、VoIPと呼ばれるデータの仕組みで通話を実現しており、通信量がほかのスマホアプリに比べて格段に大きい。通信会社にとっては設備の増強が必要になるうえ、通話収入を圧迫するという二重苦を強いている。

「処理能力に対する見積もりの甘さがあった。」同日、岩崎文夫取締役常務執行役員は都内で記者会見を開き、陳謝したうえでこう釈明した。25日未明に契約者情報の確認などに使う「パケット交換機」を新型の設備に換えたところ、通信処理が追いつかなくなったのが原因という。
障害の直接原因となったのは、通信を接続する際に端末と交換機でやり取りする制御信号の急増だった。通常、スマホを操作しない場合は、28分に1回発生するが、無料通話アプリを導入している場合、3分から5分に1回の頻度で断続的に信号のやり取りが生じるという。
ドコモが導入した新型交換機の1時間当たりの信号量の処理能力は、1410万回。想定は1200万回だったが、1650万回の信号が殺到し、設備能力を超えてしまった。
通信障害の遠因となった無料通話アプリは通話料金を節約できるとあって、スマホ利用者の中で人気となっている。無料電話やメールが楽しめる「ライン」がテレビCM効果もあって若者中心に利用者を集めているほか、「スカイプ」「ヴァイバー」「050プラス」など、様々なアプリがある。

ドコモの山田隆持社長は「15年にはVoIPは1人当たりの音声収入の3-4割に影響するだろう」と予測する。無料通話アプリの普及は電話会社をデータ通信専業に変容させる潜在性すら秘めている。
無料通話アプリは、必要なときにのみ接続する音声通話と事あり、データ通信の仕組みを使い、常時接続で通話やメールの待ち受け状態を生み出しており、利用者が使っていない場合でも、頻繁に設備と情報をやり取りしてる。こうした新サービスがドコモの「想定外」を招いた格好だ。ドコモの岩崎常務執行役員は「個別のアプリを制限することは難しい」と話した。
今回の障害はドコモの通信設備の設計思想の古さを露呈したともいえる。「iモード」では、ソフトなどで通信事業者が利用者の通信量などをコントロールできた。一方、スマホでは、第三者が自由にアプリを開発できるようになり、スマホの通信機能を無制限に使う。新技術にいち早く対応したネットワークを構築しないと、同様な問題は様々な箇所で起こりうる。
総務省はドコモの約半年で5度にわたる不具合を問題視し、26日、ドコモの辻村清行副社長を呼び、再発防止策を実施し、報告するように行政指導した。同社は27日に山田社長が記者会見し、500億円を上積みして、スマホの利用急増に対応した追加設備投資を行うことを発表した。

KDDIやソフトバンクモバイルなど、ほかの事業者も通信障害は対岸の火事ではない。KDDIも25日深夜に東京西部で携帯電話と固定通信サービスがつながらなくなる障害を起こした。
スマホの通信急増とは直接関係しておらず、深夜だったこともあり、ドコモほどの苦情はなかったが、「移動通信と固定通信を一体運用しているため、障害が同時に起きてしまうKDDIの弱みが明るみに出た」との指摘もある。
KDDIの田中孝司社長は26日、記者団に対して「世界一データを使う国民ということもあり、データ量対策は頭の痛い問題だ」と話した。
スマホ利用者に伴う通信量の増大と、想定外のアプリの登場。自由すぎるスマホの通信をどう飼いならすか、各社は新たな課題を突き付けられている。