ガリバー野村にも身売り話が

野村ホールディングスが瀬戸際に立たされている。海外部門の赤字が響き、株価も低迷、野村證券のプロパー社員からも「身売りを覚悟している」との声が漏れてくる。M&A(企業の合併・買収)の仲介業務でならし、みずからもリーマン・ブラザーズの部門買収に踏み切った野村が独立を失う日がくるのか。

「野村イズムは崩壊してしまったのか」と60代の野村OBがため息をつく。昨年暮れ、OBや現役社員を交えた会合に参加したこのOBは、50歳前後の現役社員の言葉に驚いたという。
「『身売りを覚悟している』と言っている。それはその場にいた現役社員にほぼ共通認識のようで、異論も出なかった。身売り先も『おそらくあの銀行だろう』と一致していた。誇り高き独立を守ろうというモチベーションは感じられなかった」と振り返る。

08年のリーマン・ショック後、ゴールドマン・サックスやメリルリンチなど海外の証券会社や投資銀行は、銀行持ち株会社になったり、銀行の傘下になるなど姿を変えた。いまや世界でも数少ない大手独立系となった野村にも昨年以降、たびたび“身売り説"がささやかれている。買収先として下馬評にのぼっているのが国内最大のメガバンク、三菱UFJフィナンシャル・グループだ。
野村の大きな転機となったのは、リーマンの欧州やアジア、中東の部門を買収し、多くの人材を引き継いだことだ。前出のOBは続ける。「リーマン出身者が高給を取る一方、野村のプロパー社員の多くは待遇が改善されず、不満と不安が充満していたようだ」
悪いことに欧州の債務危機が起こり、リーマン出身の人材が牽引するはずだった海外事業の業績が大幅に悪化した。

1日に発表した第3四半期(昨年4-12月期の9カ月累計)決算では、海外部門の税引き前赤字が1045億円に拡大した。全体の業績でも、10-12月の3カ月では178億円の最終黒字に転換したが、貢献したのはファミレス「すかいらーく」の売却益300億円前後だったとみられる。4-12月期では104億円の最終赤字が残る。
野村では欧州を中心にリストラを進めており、リーマン出身で法人向け部門トップだったジャスジット・バタール氏が退任するなどコストカットを進めている。
ただ、これは市場の評価との競争となる。米格付け会社ムーディーズが昨年11月に野村の格付けを引き下げ方向で見直すことを明らかにしている。第3四半期決算の結果を見て最終見解を公表するとみられるが、格下げや今後のネガティブな見通しが公表されると、資金調達などでハードルが高くなる。

証券界のガリバーと呼ばれて久しい野村だが、リーマン買収前に約3兆円だった時価総額は、いまでは約1兆1000億円まで目減りするなど図体は小さくなっている。「リーマン買収で肥大化した部門のリストラが成功すれば、かえって買収の対象になりやすい」(M&Aに詳しいコンサルタント)との見方もある。
同社の株価は2日に一時、300円を回復したが、前出の野村OBは「多くのベテラン社員やOBは会社から5%の補助を受けて給料からの天引きで野村株を購入してきた。平均の購入額は1,000円から2,000円台という人が多いので、いまや巨額の含み損が出ている」と嘆く。野村復活の日はくるのだろうか。