どんぶり勘定の電気料金制度にメス

家庭向けの電気料金制度見直しに関する政府の有識者会議は3日、料金の原価に算入できる電力会社の人件費に上限を設けることなどを柱にした報告書案を提示した。原子力発電所の稼働停止で採算が悪化している電力会社が、安易な値上げに頼らないように、値上げ幅を圧縮する仕組みにする。月内に議論をまとめ、今春の施行を目指す。
現行の家庭向け料金は、発電に必要なコストに電力会社が一定の利益を上乗せする「総括原価方式」で算出し、値上げには政府の認可が必要だ。認可の際には経産省が値上げの根拠や必要性を査定するが、人手やノウハウが不足し、「電力会社の過大なコスト試算に基づく『言い値』で決まっている」(同省幹部)実態がある。

こうした状況を改め、料金をなるべく安くするため、有識者会議は「原価」の洗い直しを進めてきた。報告書案は、これまで全額を算入してきた電力会社の人件費について上限を設け、「従業員1千人以上の一般企業の平均給与並み」の加算のみを認める。広告宣伝費や原発立地自治体への寄付金なども、原則として原価からはずす。
料金の原価を大きく左右する液化天然ガス(LNG)などの燃料費についても、他社との共同調達を促し、調達コストを抑えるよう求めた。火力発電所を新設、増築する際は他の電力卸売り事業者(IPP)との競争入札を義務付ける。

一方、原価を見積もるための期間を現在の1年から3年間に延ばし、その間に行うリストラやコスト削減の効果を料金に反映しやすくする。政府が料金変更を認定する際も、公認会計士ら外部の専門家が査定するなど、透明性を高める。
電力各社は福島第一原発事故後、火力発電への依存が増し、発電コストが急増している。東京電力はすでに、春以降の家庭向け料金の値上げを表明しており、他電力が追随する可能性もある。
経産省は新たな料金算定方法を先行して示すことで、各社に値上げ幅の圧縮を促す考えだ。

また、12年度は「原発ゼロ」の状況に陥り、代替火力燃料は1兆円かかる見通しの東電は、巨額の廃炉費用も必要で、12年3月期の通期連結最終赤字を6000億円と予想されており、「企業だけでなく、家庭向けも7月に値上げしないと会社が持たない」(幹部)と訴えるものの、値上げを認可してもらうためには、これでさらなる合理化が避けられなくなった。
東電と支援機構がまとめた今後10年間の合理化案では、資材などの外部調達の見直しで5118億円を削減、管理職25%、一般職20%の年収一律カットを当面継続し、人件費も6405億円削減するとしているが、料金値上げ分を失えば、一連のリストラ策だけでは収支改善は不十分。枝野経産相も、追加支援などの認可にあたり、「東電の体質を評価する」としており、透明性のある踏み込んだ改革が急務となっている。