ユーロの不幸に蜜の味がする国は?

「他人の不幸は蜜の味」とはもともとドイツの諺らしいが、一向におさまりそうにない欧州共通通貨ユーロ危機の結果、ドイツは美味しい蜜にありつけるのだろうか、それとも…。

メルケル首相はギリシャに対する、表向きの高圧的な態度とは裏腹に、「ドイツはギリシャなど問題国がユーロから離脱しても構わない。差し当たりはユーロ安で輸出競争力を回復しているのを歓迎しているに違いない」との見方が強まっている。
だがギリシャが離脱すれば、次にはポルトガル、スペイン、イタリアと財政危機を打開できない南欧勢が脱落し、ユーロ圏解体の危機に直面する。その過程でドイツの金融機関は巨額の南欧向け不良債権を抱え、立ち往生する。ドイツが勝者だとみるのは早計だ。

ユーロ建ての国債が広がった02年以降、08年前半までの推移をみると、加盟各国の国債利回りは大差なく、一束の折れ線となって6年間も安定してきた。このユーロ建て国債の束を一発で吹き飛ばし、ばらけさせたのが、08年9月のリーマン・ショックである。
リーマン・ショックはニューヨーク発の金融商品バブル崩壊なのだが、紙屑になりかけた住宅ローン担保証券など証券化商品の多くを保有していたのが、実は欧州の金融機関だった。そのためユーロはドルに対して一挙に2割も急落。「強いユーロ」神話はもろくも崩壊し、特にギリシャなどの国債は放漫財政の醜い裸の姿が市場にさらけ出されたわけだ。

09年に入るといったんユーロ高・ドル安に転じた。日本国内では一挙に「基軸通貨ドル体制の崩壊」論なんていう夢のような話でもちきりになった時期もあったが、覇権国米国はそんなにやわなはずがない。
米国は次のステップに踏み出した。危機はドルではなく、ユーロだ、という決定的な証拠が明らかにされたのだ。
10年2月、米英のメディアが「ウォール街の大手がギリシャを含むユーロ圏諸国の債務関連統計の操作に長らく手を貸してきた」と暴露。ゴールドマンやJPモルガン・チェースなど米金融大手は空港使用料や宝くじの収入を担保として設定し、法外な手数料を稼ぐ代わりにギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなど南欧諸国に政府債務の「飛ばし」を引き受けた。国際金融市場ではギリシャなどユーロ加盟の南欧各国の財政危機の底知れぬ深淵を見て取り、国債を投げ売る。
ユーロから逃げ出したマネーは米国債に回り、米国債の利回りは低下し、米政府の債務利子負担を引き下げる。米国はリーマン・ショック後、ドルを3倍も刷って垂れ流したおかげもあって、株価は回復軌道に乗った。景気もどうやら底打ちしつつある。

そして、スタートから最下位を独走しているのが、何も手を打たなかった日本だろう。ユーロを売却した投資家は円を買う。デフレ不況はさらに進み、輸出は激減、マイナス成長が続く。超円高・デフレの泥沼にはまりこんだのが今の姿である。
つまるところ、終わってみれば米国の独り勝ちで落ち着くところに落ち着くのかもしれない。