拡大を続けるソーシャルゲーム市場

日本でソーシャルゲーム市場が拡大を続けている。ソーシャルゲームとは、SNS(交流サイト)上で提供されるオンラインゲームのことで、SNSの会員がゲームを介してコミュニケーションが取れることが特徴だ。
また、基本的な利用料は無料で、利用時間の短いライトユーザーが多いことも他のオンラインゲームとは異なる。ソーシャルゲームはオンラインゲームや従来の家庭用ゲーム機に比べゲーム内容は単純なものが多いが、その分、女性などこれまでゲームに関心が薄かった層も取り込むことに成功し、市場は順調に拡大中。
矢野経済研究所によると、08年度に49億円規模だった日本国内のソーシャルゲーム市場は10年度には1400億円に、さらに12年度には3429億円にまで拡大するという。

そもそもソーシャルゲームは米国で誕生したものである。07年に米SNSFacebook」がユーザー向けに交流しながら遊ぶゲームを提供したのが始まりとされる。今でもFacebook向けにゲームを提供しているZynga社が世界最大のソーシャルゲーム開発企業で、その月間アクティブユーザー(1ヶ月に1回以上の利用があったユーザー)数は全世界で2億3200万人。世界で最も売れた家庭用ゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」の販売本数が約4000万本、日本のSNS大手のグリーやDeNAの会員がいずれも3000万人規模ということを考えると、その多さがよく分かる。
ただ、米国のソーシャルゲームが主にパソコン上でプレイするのに対し、日本では携帯電話を主なユーザーフェイスとする。このため、今まで日本は海外製のゲームに浸食されることなく、独自のソーシャルゲーム市場を育むことに成功した。
以前はその拡大スピードの速さから市場はすでに飽和を迎えつつあると危惧されたこともあったが、最近はまだ拡大余地ありとの声が聞こえてきている。きっかけはスマートフォン、特にアップル社製「iPhone」のヒットだ。以前なら、携帯電話向けソーシャルゲームを得意とする日本勢が海外にゲームを配信しようとすると、世界中にある膨大な携帯キャリアに―しかも最新機種から古い機種まで―対応したソフトを開発し、さらに複数の言語で制作しなければならないという壁があった。

しかし、iPhoneのような同一のスマートフォンを世界中の人が手にすれば、こうした煩雑な手間の多くが解消する。実際に、国内大手SNS事業者はスマートフォン対応と、それと連動した海外展開を加速させている。
例えばグリーは、11年4月に米SNS大手を買収して海外市場の足掛かりを構築。今春からはゲームの開発・配信基盤を世界で共通化し、有力コンテンツを海外にも配信。3-5年以内に世界で会員数を10億人に伸ばしたい考えだ。市場が拡大傾向にあり、さらに今後海外展開が容易になると予想される点はゲームコンテンツ制作会社の目にも当然魅力的に映る。スクエア・エニックスホールディングスやコナミなど大手企業も、女性などライトユーザー層の獲得や海外展開を目論みソーシャルゲーム向けソフト事業を強化中。人気ゲームタイトルをソーシャルゲームに移植したり、ゲーム中の有名キャラクターを起用した新作タイトルをリリースするなど、豊富な自社コンテンツを生かす。

ただ、スマートフォンが普及するということは、海外SNS事業者やゲームが日本市場に進出しやすくなることも意味する。ゲーム開発・配信基盤が共通化されることで参入障壁は低くなり、今後競争が激化することは必至だ。すでに海外市場ではコンテンツが溢れ、大量の広告宣伝費をかけてプロモーションする状況になっている。
現在ソーシャルゲームは高い利益率を誇るが、今後参入企業が増えれば、莫大な広告宣伝費をかけシェア拡大に成功したにも関わらず、利益は伸び悩むという「消耗戦」に陥ることも考えられる。そうならないためにも、有力コンテンツとユーザーの囲い込みがますます重要になっていきそうだ。

◎ソーシャルゲーム関連企業
SNS事業会社】 クルーズ(2138)・DeNA(2432)・グリー(3632)
【ゲームコンテンツ制作】 コエテクHLD(3635)・ネクソン(3659)・日本ファルコム(3723)・ドリコム(3793)・ユークス(4334)・カプコン(9697)
【その他】 デジタルハーツ(3620):家庭用ゲームソフトの不具合検出サービス。・ガイアックス(3775):ネット上の交流サイト関連サービスの開発・運営。
Eガーディアン(6050) SNS、ソーシャルゲームの監視。グリーへの売上高依存度が高い。