決算ショックの嵐(後編)

(前編から続く)

最もレシオのマイナス幅が大きい「ネガティブ・サプライズ企業」は東北電力だ。今期、初めて公表した最終損益の見通しは2500億円の赤字。同社の管轄するエリアは大震災の影響が最も大きかった地域とあって、被災した火力発電所や水力発電所の修繕費がかさんだ。原子力発電所の停止に伴って増加した火力発電用の燃料費が大幅に増えるという、電力各社に共通するコスト要因も重なる。震災の影響が読み切れず、アナリストもこれまで踏み込んだ分析ができなかったため、会社側との予想の乖離が広がったようだ。
2番目にネガティブ・サプライズが大きかったリコーのレシオのマイナス幅も1000を超える。2012年3月期の最終損益が460億円の赤字と、連結決算を開示して以来、初めての赤字に転落する見通しを発表した。それまでの予想は100億円の黒字だった。欧州景気の悪化などを受けて、プリンターの売れ行きが急速に落ち込む。中期的事業と位置づける海外の商業印刷事業では、のれん代などの減損処理が発生した。
それに次ぐシャープは、今期の最終損益は2900億円の赤字と、赤字額は過去最大を記録。営業損益もトントンと、これまでの850億円の黒字見通しを修正した。発表翌日の株式市場ではストップ安まで売り込まれるなど、過去の株式分割を考慮して1980年以来、約31年半ぶりの安値に沈む場面があった。

一方、市場予想を大きく上回る業績見通しを発表した「ポジティブ・サプライズ」企業は数少ない。そのなか、運輸業種の好調ぶりが目立つ格好となった。全日本空輸(ANA)や、東日本旅客鉄道などJR3社はいずれも営業利益見通しを上方修正した。ANAは経費削減の効果が大きいが、JR東日本東日本大震災の影響で低迷していた旅客需要が東北新幹線などを中心に回復する見込みが出てきた。JR西日本も山陽・九州新幹線直通列車の「みずほ」や「さくら」の乗車率が高まるなど、震災による落ち込みからの回復が早まっている。
輸出関連の電機や自動車にも、足元で明るい材料はあった。経済産業省が1月30日に発表した昨年12月の鉱工業生産(速報値)が前月比4.0%の増加と、市場予想を大きく上回ったことだ。タイの洪水の影響で寸断されていた部品や素材のサプライチェーンが少しずつ回復してきたことが読み取れ、株式市場では情報通信や電機、自動車の関連株に買いを誘う場面があった。

もっとも、この鉱工業生産の数字について、クレディ・スイス証券白川浩道チーフ・エコノミストは「過大に推計された数字」と注意を喚起する。注目するのは、日銀が発表した昨年12月の実質輸出で、前月比1.0%の増加と、小幅な伸びだった。日銀は毎月、季節調整をかけ直す一方、経産省は毎月の遡及改定を避けるために、前年の季節指数が今年も一定と仮定して季節調整しているという。白川氏が独自に季節調整をかけ直すと、今回の鉱工業生産は1.2%増にとどまる計算になるという。
白川氏は、外需が落ち込んでいることについて、「すでに産業構造問題になりかけている」と危惧する。これまで「失われた20年」などと言われた長期の景気低迷下で、企業の多くはリストラを進めてきた。しかしながら、「いまだに同じような製品を作る会社の数が多いなど、選択と集中が進んでこなかった」と指摘。海外との競争の中で日本が1人負けの状況に陥りかねないと懸念する。つまり、外需の落ち込みの根底にあるのは、円高や海外景気とは別に、日本企業の生き残る力の弱体化というわけだ。
復興需要に期待が高まっていることについても、白川氏は「これまでの輸出の規模に比べれば小さく、外需減少をカバーするようなものではない」と冷ややかに見る。被災地では瓦礫の撤去が進んできたが、新しい街づくりに向けた本格的なインフラ整備などの動きまで見通せる状況にはなく、復興効果にも過度な期待を抱きづらいのが実情だ。
資源に乏しく、国土も狭い日本の経済が再び浮揚するには、世界を牽引できる技術力を持つような強い企業が増えていく産業構造が求められる。企業の多くが円高で苦しむ事情は理解できるとしても、今年はそれを乗り越えようとする踏ん張りが一層、重要になってくるだろう。