株vs.債券論争

バークシャー・ハサウェイのバフェット会長は、フォーチュン誌に掲載された株主宛年次書簡の翻案版で、低金利とインフレ懸念のため、債券や通貨に依拠するMMF、モーゲージ、銀行預金等は、もっとも危険な資産になっているとの見解を表明。こうした資産への投資家は利払いや元本の償還を受けている時ですら、購買力を損ねているとも述べた。債券回避の姿勢は、FRBによる14年末まで実質ゼロ金利継続姿勢の表明や株価が割安水準に放置されている状態を背景に、コンセンサスとなりつつある。
ブラックロックのフィンクCEOも、投資家はポートフォリオの100%を、リターンが高く、過去20-30年で最も割安になっている株式で構成すべきだと述べた。安全性を求めた米国債への投資家は、最低限のリターンしか得られないとし、世界が崩壊するような事態は起きないので、もっとリスクを取るべきだと強気の姿勢。株の配当利回りと債券の利回りを見れば、どちらを選ぶべきか一目瞭然とまで言い切る。しかし、100%株式という選択は、6割が株で、残りの4割は債券という投資運用の一般的な指針とはかけ離れる。ブラックロック自体の資産も、債券1.25兆ドルに対して株は1.56兆ドルで、株に大きく舵を切っている訳ではない。
バフェット氏は、80年代前半のように高金利であれば、通貨に依存する投資に内在するインフレリスクも埋め合わせられるが、現在の金利水準では到底無理と主張する。物価上昇を考慮した実質利回りは、マイナス1%を下回る惨状であるのは事実。バークシャーも米国債をまだ相当保有しているが、短期証券が中心で、経済が大混乱状態に陥った際の流動性確保が目的だ。

こうした債券離れが進む中、「債券王」の異名をとりながら、昨年は米国債の大量売却で敗北を喫したビル・グロス氏が率いるピムコは、米国債保有を再び10年7月以来の水準に引き上げた。運用資産2505億ドルに上る旗艦のトータルリターンファンドでは、米国債の占める割合が、昨年12月の30%から38%に急増している。実質マイナス金利の状態については、グロス氏も金融の抑圧だと評しているが、実質ゼロ金利の長期化が明らかになったため、5-7年後に償還を迎える債券を好んで買い増しているようだ。FRBのインフレ警戒度が低い現状では、10年-30年債には妙味がないとの判断だが、トータルファンドでは、全体の8%をインフレ連動債が占めている。
ピムコの動きは例外的で、債券は弱気、株式は強気一色が実情。しかし、フィンク氏は、昨年5月にも債券から株への転換を薦める発言をしているが、それ以降も米国債のパフォーマンスが、株を上回ってきた。過去1年では、バンカメ・メリルのインデックスによれば、通常の米国債のリターンは10%、TIPSは17%、世界債券でも7.6%あるのに対し、MSCIの世界株インデックスは1.7%の低下だ。

債券投資の危険性を語る機関投資家は、既に米国債市場の有力プレーヤ―ではないとビアンコリサーチは指摘する。中国、日本やFRBの買いが、米国債市場を支えているため、長期債は過去1年、パフォーマンスで株式を凌駕してきた。一般投資家とは異なる意図を持つ買い手が大きな影響力を持つこの構図は、暫く変わらない事を認識すべきだろう。もちろん長期的に見れば、企業買収や株式の方が大きなリターンが期待できるとするバフェット氏の主張に説得力はあるが、投資の時間軸を同じにしないと擦れ違いの議論になりそうだ。