ありうる日本国債急落シナリオ

三菱東京UFJ銀行が日本国債の価格急落に備えた「危機管理計画」を作ったとして、2月2日付朝日新聞1面に「数年後の国債急落を想定、三菱UFJ銀が危機シナリオ」の見出しで掲載されたことがある。
それによると、同計画は昨年末にまとまり、日本の経済成長や経常収支、為替など30指標をチェックし、国債急落につながる変化があれば損失を軽くするため売却などの対応をとるという。具体的には、金利が跳ね上がると「損を少なくするため短期間に数兆円の国債を売らざるを得なくなることもある」としている。
さらに、「日本政府の借金総額は約1000兆円あり、このうち国債を発行して投資家から借りているのは約750兆円(昨年9月末時点、日本銀行調べ)。国債の9割超は国内で買われ、4割を銀行が持っている。とくに三菱東京UFJはゆうちょ銀行を除いて最大の約42兆円を持ち、国債を売買する債券市場への影響力が大きい」とも指摘している。国債の有力な買い手が「急落シナリオ」を想定し始めたことを物語っている。

唐突に浮上したように見える三菱東京UFJ銀行の「国債危機管理計画」であるが、同計画は金融安定理事会(FSB)が昨年11月に、グローバルな金融システム上重要な金融機関(G-SIFIs)に作成を義務付けた「破綻処理計画」の一環と思われる。G-SIFIsには世界の主要金融機関29行が指定され、日本では三菱UFJ、みずほ、三井住友のメガ3行が入っている。
FSBは、08年の金融危機時に大手金融機関を公的資金で救済した反省に立ち、今後「大きすぎて潰せない」金融機関の処理が納税者の損失とならないよう、事前に破綻処理計画を作成させることを求めている。その計画で念頭に置かれるのは、危機時に顕在化した集中リスク、市場リスク、資金調達リスク、伝播リスク、ソブリンリスク(国債の暴落)の5つである。今回、三菱東京UFJ銀行が作成したとされる計画はソブリンリスクに重きが置かれている。日本の銀行が最も恐れる破綻シナリオは、国債の暴落に端を発した市場の混乱に他ならない。

すでに日本国債の暴落リスクは海外からも警鐘が鳴らされている。昨年11月23日にIMF(国際通貨基金)が作成したワーキングペーパー「日本国債市場のリスク評価」では、日本の公的債務残高は「持続不能な水準」に膨らみ、「日本や世界経済安定のリスク」になったと指摘している。そして、「財政の持続性をめぐる市場の警戒心から、日本国債の利回りが突然跳ね上がる恐れがある」と記している。さらにIMFのリポートは、日本国債暴落のシナリオに、先物市場で海外投資家が売りを仕掛ける可能性も指摘している。
実際、その直後の11月25日には、ドイツ国債の札割れに連れて日本国債が売られ、長期金利が1%台に跳ね上がった。日本国債は95%を国内勢が持っているからといって、必ずしも安心できるわけではない。上記のように先物を使って売り崩される可能性があることは知っておきたい。