国内投資だって為替水準がモノをいう

東日本大震災からもうすぐ1年たつというのに、力強い復興・再生の足音が聞こえない。昨年第4四半期のマイナス成長はタイの洪水が主因だと政府は言うが、肝心の民間設備投資が低迷したままだ。
統計データを突き合わせてみれば一目瞭然なのだが、円高とともに設備投資は落ち込み、円安基調に転じると回復する。阪神大震災時には円安を受けて、95、96年の設備投資の実額規模は94年の水準を維持し、97年には大幅に増加した。しかし今回はそんなパターンは望めそうにない。

政府は2月の第4次補正を含め11年度一般会計予算の総額は過去最大の107兆5105億円を計上した。11年度の3次の補正と12年度予算を含め、政府の復旧・復興事業予算は総額18兆円に上る。復興予算の執行が本格化すれば景気は上向くと内閣府エコノミストは言うが、政府予算はいわゆるバラマキ型で、被災地などごく一部の地域で現ナマを手にした一部の個人の高額消費や夜の繁華街での散財を刺激していても、民間投資がついてこなければ一過性に終わる。
増税しては予算をばらまく安直な野田佳彦政権には民間投資を引きつける中長期的な復興・再生戦略が欠けているが、嘆いても時間だけが過ぎていく。せめて超円高が是正されるだけでも企業の国内投資マインドは好転するはずだ。

ところが、野田政権から出てくるのは、5円上昇するたびに行う外国為替市場での円売り・ドル高介入や、外為特別会計のドルを使った企業の海外企業買収支援などの「円高対策」ばかり。前者の効果は一時的だし、後者に即効性はない。そもそも、企業の直接投資は国内設備投資のあとをついてくるもの。直接投資はリーマン・ショック後年間10兆円減った後、昨年6兆円増加したが、国内設備投資はリーマン前比で年間15兆円も減ったまま回復しない。

産業の空洞化に拍車がかかっているわけだが、従来の空洞化とは訳が違う。中小企業が海外流出を恐れて国内に秘匿していた生産技術をそっくり中国など海外に移すケースも相次いでいる。大企業も炭素繊維など最先端技術を引っさげて対外進出している。国内と連動しない一方的な対外投資は日本衰退の表れで、それを政府が推進するのは何とも奇々怪々である。
では、どうすればよいだろうか。
与野党を問わず、最近では日銀政策が超円高の元凶ではないか、という批判が政界で高まりを見せている。「日銀法を改正すべし」と息巻く議員も多くなってきた。

だが、いくら攻め立てても政策リスクをとらないのが官僚というもの。大きな課題に小さく答えては、首をすくめてやり過ごす。そうなら、政府がまず脱デフレと超円高是正の明確な政策を打ち出し、インフレになった場合の責任を政府が引き受けるくらい思い切った取り決めを日銀と結ぶしかない。
問題は野田首相である。「白川総裁とひざを突き合わせて話しあう」と繰り返すが、知恵袋の財務官僚は日銀官僚と「円高・デフレ放置」で連合を組んでいる。白川氏に「日銀政策委員会の同意があればよいのですが」と軽く受け流されるのが目に見える。