強まるドイツへの風当たり(前編)

最近、ドイツの外務省にとって、欧州各地の報道のチェックは気持ちのいい作業ではない。「ちょっと見てください。これは、とても容認できない」。ある外交官はそう嘆きながら、イタリア紙の1面に載った記事を指さした。ユーロ危機とアウシュビッツを結びつけ、ドイツの傲慢さに気をつけろと警告し、ドイツは単一通貨を兵器に変えたと断じる内容だった。ギリシャの新聞も大差はない。ナチスによるギリシャ占領に言及することがタブーでなくなって久しい。

「卑劣なドイツ人」が南欧全域に戻ってきた。ドイツは他国を貧困に追いやり、各国の政府から権限を奪い、大抵は誰にでも偉そうに命令する、という具合だ。
これに比べればはるかに丁寧とはいえ、政府などの要職に就く人々もドイツをたたいている。スイスのダボスで先日開催された世界経済フォーラムの年次総会では、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事、米国のガイトナー財務長官、英国のキャメロン首相の3人が本質的に同じ主張を展開した。必要な費用はドイツが払わなければならないというのだ。ユーロ圏が存続し、世界経済が大惨事を回避するには、ドイツはもっと努力し、もっとカネを出して単一通貨を支えなければならない。
こうした議論はひどく不公平だ。ドイツが既に南欧諸国にかなりの支援を実施していることを見落としているうえ、ドイツ国内で経済・政治的な惨事を招きかねない資金拠出を求めているからだ。

ドイツは今、主に3つの政策の実行を要請されている。第1の政策は、いわゆる「防火壁」への資金拠出だ。市場が南欧諸国の国債に投機を仕掛けるのをあきらめるほど大きな基金を作れ、というわけだ。第2の政策はユーロ共通債の導入、すなわち、ユーロ圏諸国の債務の共有化に取り組むこと。第3の政策は、ドイツ自体の景気を刺激し、ドイツの消費によって南欧の製品に市場を提供することだ。
実のところ、ドイツは欧州の様々な救済基金に計2110億ユーロ(約21兆5200億円)を既に拠出している。これは年間の国家予算の約70%に相当する金額だ。一方、ドイツにもっとカネを出すようせっつく国の多くは、明らかに支援に尻込みしている。英国は南欧諸国の救済に加わっておらず、IMFへの150億ポンド(約1兆8300億円)の追加拠出にもなかなか踏み切れずにいる。米国も、欧州で使う資金をIMFにこれ以上提供するつもりはないと明言している。
結局、ドイツがさらに資金を出すことになりそうだ。しかし、ドイツ人は警戒心を抱いている。南欧諸国への融資は返済されない可能性があることや、下手をすれば欧州中央銀行(ECB)を救済する資金まで負担させられる恐れがあることを知っているからだ。

(後編へ続く)