米国の失業率低下は幻影の可能性

米失業率が冬場に急低下したことは、再選を目指すオバマ大統領を後押ししているようにみえる。しかし一部の民間エコノミストによると、雇用統計は季節要因を不正確に測定しているため、失業率の急低下は幻だった可能性がある。こうした分析が正しいなら、反動により今後数カ月間は失業率の低下が足踏みするかもしれない。そうなれば、オバマ大統領は失業率低下で獲得できた大事な浮動票を逃す可能性がある。

ゴールドマン・サックスのエコノミスト、アンドルー・ティルトン氏は「過去数カ月間の(失業率の)改善は、基調的な改善をあまりにも過大に見せていると思う。今後はこうしたペースでの改善は続かないだろう」と話す。
ゴールドマンの予想では、年末の失業率は8.2%と、1月実績の8.3%をわずかに下回るにとどまる。
米失業率は昨年10月の8.9%から0.6%ポイント下がった。低下ピッチは異例の速さで、年末までに8%を割り込むとの楽観論が盛り上がりつつある。

しかしアナリストは、失業率をこれほど急速に低下させるほど米景気は急回復していないと首をかしげる。
ウォール街のエコノミスト数人は、その理由を求めて統計を分析した結果、07年から09年にかけての景気後退時に冬の季節調整がゆがみ、その影響が今も続いているとの見解に至った。
政府は、冬場に厳しい寒さで建設労働者が減るなどの季節要因を取り除くため、コンピュータプログラムを利用して数値の補正がかけられている。雇用統計の数値の前提をよく読むとわかるが、必ず「季節調整済み」という但し書きがなされており、それが補正結果の数値が公表されていることを示している。これは季節調整を施さなければ雇用市場の健全性を測るのは難しいためであり、例えば昨年12月も今年1月も失業率は上昇していたことになってしまうことになる。
コンピュータプログラムは近年の実績に基づいて季節調整を加えるようになっているため、08、09年の冬に数百万人が失業したのを基に、その後数年の冬についても同様に厳しい想定をしていた可能性がある。
この冬は季節調整前の失業率が想定ほど上昇しなかったため、コンピュータープログラムが失業率を押し下げるよう過大な調整を施したようだと、JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は6日のノートで解説した。他にもウォール街のエコノミスト数人が同様の影響を指摘している。

連邦準備理事会(FRB)でさえ失業率の急低下には当惑している。バーナンキ議長は、当局者は年内にこれ以上の大幅な低下を予想していないと述べた。FRBのエコノミストは最近の雇用回復の背景を調査中だ。ちなみに、9日発表される2月の雇用統計は、失業率は横ばいと予想されている。