このところの興味深い金価格の動き

ここ2日のNY金価格はFOMCの予想外の強気な景気見通し(上方修正)を受けて、続落しており、この日記を書いている時点では1トロイオンス1,640ドルを割り込むところまで続落している。昨年9月末までワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)日本代表を務めた豊島逸夫氏は「金融緩和依存症に陥っていた金相場がQE3というハシゴを外された」とコメントしているが、今回のFOMCでも、QE3に関する言及はなく、金市場では禁断症状が悪化した。FOMC内で景気強気派の影響力が強まり、QE3が「FRB内で議論のテーブルから外される」様相が強まったので、金は売られたと解説している。
ゼロ金利は「14年終盤まで継続」という、金利を産まない金にとっては「朗報」が確認されたにもかかわらず、売り込まれたところに、トレードの難しさがある一方で、QE3依存症の症状進行も感じられる。「その程度の刺激では物足りなくなってきた。もっとはっきりQE3を明言してくれないと鬱になってしまう。」と言いたげである。

このところデータで興味深いのは、プラチナ価格は下がらず、金価格を久し振りに上回り、プラチナ価格>金価格と、久々の順ざやになったことだ。
そもそもプラチナはQE3依存度が金より低い。通貨としての顔を持つ金は、量的緩和により通貨価値が希薄化すると「刷れるドル、刷れない金」が意識され代替通貨として買われる。ゆえに、追加的量的緩和観測が後退すれば、代替通貨需要も減る。しかし、プラチナは、あくまで自動車排気ガス清浄化触媒中心の産業用素材であり、代替通貨として買われることはない。通貨と商品の二面性を持つ金に対し、あくまでピュアな商品であるプラチナは、FOMCの景気見通し上方修正により実需増(特に自動車販売増)の期待感で買われる面があるというわけだ。

但し、マクロ経済の潮流を見れば、欧州発のリセッションが中国にも波及したことが、プラチナ価格には重しとなりジワリ効いている。更に、金は外貨準備として買われるが、プラチナが外貨準備としては買われない。昨年の金市場10大ニュースのトップに、上述の豊島氏は「中央銀行セクターが従来の年間500トン前後の売り越しから2011年は400トン以上の買い越しに転じた」ことを挙げた。絶対量で900トンの差は、年間生産量が2,800トン程度の金市場の需給の景色を変える。
ドル高なら金安のような、これまでの「定石」はあくまでその時に一番都合のよい落ち着きどころだっただけで「法則」ではない。市場に大きな構造変化が生じている現状においては、金とプラチナの価格差を、従来の経験則のみで予測することは危険であることを物語っている。