株式投資の基本は資産価値と成長性

3月も半ばとなり、就職を控えて新生活の準備に追われている人も多いだろう。新社会人の中には給料やボーナスの一部を将来に備えて株式で運用したいと考えている人もいそうだ。銘柄選びにはどんな「株価の物差し」が役立つか。代表的な投資指標の特徴や注意点を点検した。
「割安株はまだ上昇余地がありそうだ」。運用会社のビバーチェ・キャピタル・マネジメントの三井郁男運用部長はこう話す。東日本大震災や欧州発の金融不安に市場が揺れた昨年、日経平均株価は1年間で2割弱下落。年初からの戻りで震災前の水準回復が視野に入ってきたが、「上昇についていけていない銘柄も多い」という。

三井氏が注目するのは「PBR(株価純資産倍率)が低い銘柄」だ。PBRは企業が持つ資産の価値に着目した指標で、株価が1株あたり純資産の何倍まで買われているかを示す。会社が解散して保有資産を株主に返した場合、理論上は受け取れる資産配分額と株価が等しいと1倍となる。PBRが1倍を下回れば、株価は会社の解散価値より評価が低いということになる。
13日の時点で東証1部全体のPBRの平均は1倍強。1月以降、トヨタ自動車三菱商事などの主力株が相次ぎ1倍を回復したが、上場銘柄の約6割は依然1倍を割り込む。今後は出遅れ銘柄の修正が進むとの声は多い。
ただ、業績低迷などで資産の価値が目減りする懸念があるために、株価が安いことも考えられる。そこでプロの投資家は「財務の健全性を示す自己資本比率が50%以上で、過去3年間にわたり純利益が黒字」などの条件を設けている。今期は震災の影響で赤字になる企業も多く、「リストラによるコスト構造の転換や収益環境の改善で今後の黒字転換が見込める企業は有望」(三井氏)との指摘もある。

株価水準を判断するもう一つの代表的な指標がPER(株価収益率)だ。株価を1株利益で割って計算し、倍率が高ければ株価は割高、低ければ割安とされる。算出のベースとなるのは今期の予想利益。だが、「株価はおよそ5年先までの成長性を織り込む傾向がある」(マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジスト)といい、将来の成長期待によって、PERの水準は変わってくる。
企業の成長性や経営効率を見極めるうえで、海外投資家などが重視するのが自己資本利益率(ROE)の高さ。経営資源をどれだけ効率的に使って利益を上げたかを示し、純利益を自己資本で割って算出する。「ROEが高いほど、将来の企業価値を高める力がある」(広木氏)といえ、収益や資産の増加に期待した買いでPERやPBRは高くなる傾向がある。

株式の配当をもとに銘柄を選ぶ方法もある。高配当銘柄を探すのに使うのが、投資額に対し年間で何%の配当を受け取れるかを示す配当利回りだ。ただ配当水準が高くても、財務が脆弱だったり業績が悪化したりしている場合は減配リスクもある。自己資本比率や業績動向などと組み合わせて使う必要がある。
こうした財務指標は企業の決算短信などで簡単にチェックできる。決算短信の1ページ目には1株あたりの純資産や1株利益の予想値、予想配当などが記されていることが多く、これをもとにPBRやPER、配当利回りなどを計算できる。ROEの実績値もわかる。決算短信は企業や東証のホームページで閲覧できる。

ただ、株式投資では銘柄選別と並び売り時の見極めも重要。限られた時間の中でも、業績動向や株価に影響するニュースなどの情報収集を続ける必要がある。ファイナンシャルプランナー(FP)の紀平正幸氏がすすめるのは、自分の仕事に関連した業種から銘柄を絞り込む方法。「自分が関わる業種に近い銘柄の値動きを探れば、市場動向やマクロ経済との関連性などにも視野が広がる」との考えだ。
資産運用の基本は分散投資。自分が勤める業界の環境が悪化し、ボーナスも運用収益も目減りしては元も子もない。銘柄選別にあたっては、業績や株価に影響を与える要素やリスク要因をよく検討したうえで、投資先のバランスを考えたい。