ソニーはどうなる

ソニーの株価は、11年4-12月決算を発表した翌2月3日から5営業日連続の上昇となった。パナソニック株が同決算発表後に一進一退したのと比べると対照的だ。「『12年3月期でソニーの大赤字は底』と株式市場が見られるようになった。」楽天証券経済研究所のアナリスト、今中能夫氏は説明する。
そう判断する理由の一つは、不振に陥っているテレビ事業の赤字額が縮小する兆しが見えてきたこと。
ソニーのテレビ事業は12年3月期で8期連続の赤字。累積の損失額は4000億円を超えるとみられている。看板製品であるテレビの不振は業績全体の足を引っ張り、09年3月期には連結純損失に転落、12年3月期まで4期連続の純損失を計上する事態に陥っている。

そのテレビ事業の赤字額が11年7-9月期に比べて、同10-12月期は減少した。「モデル数の削減などに取り組み、売り上げも減ったが赤字幅も縮まった。」ソニーの最高財務責任者(CFO)である加藤優執行役は、テレビ事業の採算改善の理由を決算の場で説明した。
テレビ事業の採算改善に加え、タイの洪水被害で受け取る600億円の保険金が13年3月期に反映される予定だ。12年3月期は1000億円近い営業損失の計上見通しだが、13年3月期は「保険金を入れると1600億円の営業利益を出せるのでは」と上述の今中氏は言う。
世界でトップシェアを持つCMOイメージセンサースマートフォン向けなどの売り上げ拡大や、今期は減益とみられるゲーム事業が来期は増益になることも期待されている。
さらに、株式市場が好感しているのは、今年4月1日からソニーのCEOがハワード・ストリンガー氏から、現副社長の平井一夫氏に交代することだ。交代時点で70歳のストリンガー氏に対して、平井氏は51歳。
若返りが図られるうえ、米国に本拠を置くストリンガー氏と違い、平井氏は本社のある日本で陣頭指揮を執ることができる。「トップが現場で指示できることは、よいメッセージ」と先の今中氏は言う。
株価が上昇に転じる前、ソニー株のPBRは0.5倍程度だった。売られすぎの水準だったのをこれまで説明してきた要因で水準訂正に動き始めた。これが2月上旬のソニー株の動き。関心はソニーの業績が本格回復するまでの時間軸だ。

採算は改善傾向にあるとはいえ、テレビ事業の「赤字体質は抜本的に改善されたわけではない」(マネックス証券シニア・アナリストの金山敏之氏)。デジタルカメラでもニコンやキャノンに水をあけられている。音楽子会社のCBS・ソニー(現ソニー・ミュージック・エンタテイメント)出身で、ソニー本業のエレクトロニクス事業の経験に乏しい平井氏が、ソニー本体で聖域なき改革を断行できるのか。
平井氏は日本経済新聞おインタビューで、「テレビ事業の2年後の黒字を目指す」と答え、「あくまでも一般論として、業界全体で再編の動きも出てくるのでは」とした。その再編にソニーが加わることがあれば、巨額のリストラ費用の計上もありうる。
こうした状況で株価はどう動くのか。アナリスト5人の意見では、13年3月期までの投資判断は、強気が3人で、弱気が2人。株価レンジは1,200-2,200円と幅がある。「当面の水準はPBR0.7-0.8倍程度では」と今中氏は言う。
平井氏が新CEOに就任する4月1日前後に、中期経営計画を明らかにする予定で、それがカタリストになる可能性はある。
SMBC日興証券のシニアアナリストの三浦和晴氏は「ソニーは為替敏感株。円安に動けばポジティブに動きやすい」という。また値動きの傾向として、5月や6月頃に高値をつけた後に停滞し、年末にかけて景気動向で反応するアノマリーがあると三浦氏は言う。
今年は3月に欧州ソブリンの大量償還があり、4月に平井新CEOの所信表明があることを考えると、ソニー株はれ年よりも早めに動きが出る可能性がある。