一斉交代する家電3社の新社長は三者三様

パナソニック、ソニー、シャープの薄型テレビトップ3の社長が一斉に交代する。12年3月期の最終赤字はパナソニック7800億円、ソニー2200億円、シャープ2900億円と計1兆2900億円に上る見込みだ。業績の立て直しを託された3人のタイプはまったく異なり、その個性はまさに三者三様。いち早く再生への道を切り開くのは誰になるのだろうか。

「まさに青天の霹靂という思いだった」。6月下旬にパナソニック社長に就く津賀一宏専務は2月28日の交代発表会見でこう語ったが、社内や業界では早くから次期社長の「大本命」と目されていた。
在任6年となる大坪文雄社長の退任は既定路線だったが、巨額赤字のタイミングで辞めれば、「引責」と受け止められかねない。一時は「続投説」も浮上したが、「切り札の存在が、交代を決断させた」(関係者)との見方も。
創業家以外では史上最年少の55歳で社長に就くが、「年齢は関係ない。スピード感を持った経営ができるかどうかだ」と、歯牙にもかけない。
DVDや地上デジタル放送関連などの技術畑出身だが、歯にきぬ着せぬ物言いで「切れ者」として知られてきた。逸話の一つが、同社やソニーが推す「ブルーレイ・ディスク(BD)」と東芝が主導した「HD-DVD」による次世代DVDの規格争いだ。規格統一の話が持ち上がった際、技術担当役員だった津賀氏が「BDに死角はない」と、東芝の要求を一蹴。最終的にBDを勝利に導いた。
昨夏の役員会では、稼働から1年半のプラズマパネル工場(兵庫県尼崎市)について、「止めるべきだ」と提言。社内に波紋を広げたが、結局、その秋に工場の停止が決まった。
「松下は人をつくる会社だ」(松下幸之助氏)という社風が残る同社で、その「切れ味」と「スピード」を発揮できるがカギとなりそうだ。

「あのギャップがたまらない」。クールな見た目とは裏腹なジョーク好きで気さくな人柄にひかれる女性社員は多い。
4月1日にソニーの社長兼CEO(最高経営責任者)に就く平井一夫副社長は、ハワード・ストリンガー会長から全権を委譲され、グループ168,200人の頂点に立つ。
84年に子会社のCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント=SME)入社。ネーティブ並みの英語力を生かして欧米アーティストとの契約などを担当した。
大きな転機となったのは、95年にソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)に出向し、家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)」の北米展開に携わったことだ。関係者は「畑違いへの異動に『このチャンスを生かすのも駄目にするのも自分次第だ』と話していた」と振り返る。
北米市場での成功が世界的なヒットにつながり、ソニー本社でも一目おかれる存在となる。18年に赤字続きのソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の社長に就任。PS3の値下げ断行などで11年3月期に5年ぶりの黒字に導いた。
ストリンガー会長の「右腕」として、11年にソニー本体の副社長へと取り立てられたが、社内では「ヒライ、フー?」と揶揄されるなど、子会社出身でソフト畑を歩んできた「異端児」と見なす声も多かった。
「何を言われても動じないタフな心臓の持ち主」。一緒に仕事をした社員らが口をそろえる「強い信念」で難局に挑む。

4月1日にシャープの新社長に就く奥田隆司常務執行役員は、片山幹雄社長からの打診に「驚きのあまり言葉を失った」という。早くから社長候補と目され、49歳の若さでトップに登り詰めた片山社長とは対照的に、「普段は目立たない存在」(幹部)。社内でも「サプライズ人事」と受け止められている。
97年からマレーシアに3年間駐在し、08年5月からは海外担当役員として海外戦略を陣頭指揮してきた。新興国市場の開拓で出遅れ、海外売上高比率でライバルに見劣りしており、「グローバルで戦える態勢を整えるのに最適」(片山社長)と、白羽の矢が立った。
座右の銘は「現場主義」。インドで「宣伝には口コミが有効」と聞くと、すかさずマーケティングに取り入れた。昼食時に本社の食堂にふらっと現れ、「ざっくばらんに社員の意見に耳を傾ける」(中堅社員)という。
片山社長は「非常に誠実な実務派」と評する。現場に根ざした堅実さを、逆境を跳ね返す強い武器にできるかが、再生の行方を左右しそうだ。