円安株高活況は砂上の楼閣

3月19日、日経平均株価は終値が10,141円と東日本大震災後の高値をようやく更新した。
しかしこの先もこの調子が続くとはとても考えにくい。日本にとって最悪のシナリオは、資源価格高騰による輸入インフレが賃金上昇を伴わない物価上昇、つまり悪性インフレにつながる可能性だ。すでにその兆しは見えている。

中東産ドバイ原油のスポット価格は3月19日に一時3年8か月ぶりに1バレル125ドル台に乗せた。
日本の輸入の8割を占める中東産原油は、ドバイ産原油スポット価格に準拠して1か月ごとに決まる。日本の場合、中東産原油の高騰に、このところの円安も加わる。
5月には原発が全機停止し、再稼働のめどが立たなければ、原油価格連動の液化天然ガス(LNG)の輸入数量増が貿易収支をさらに悪化させる。原発全機停止による電気料金の値上げは、「実質GDPを0.5-1.1%引き下げる可能性がある」(大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト)といわれている。世界同時緩和で行き場を失ったマネーが原油市場に向かい、価格が高騰すれば最も影響を受けるのは円安トレンドになり、原発代替で化石燃料の輸入を増やしている、わが日本に他ならない。

最大の問題は、欧州債務危機の再発など、経済危機に陥った場合、日銀をはじめとする世界の中央銀行の金融政策に過度に期待してしまう風潮が蔓延することだ。特に日銀は、今回の緩和の効果が劇的だったゆえ、「今までできたことを日銀は先送りしてきたのではないか」(実際その通りだが)という強い批判にさらされ、今後も市場や政治家から「さらなるリスク資産の買取りができるはず」「インフレのめどを1%から2%にせよ」「インフレ目途をインフレターゲットに言葉を修正せよ」と圧力をかけられる可能性が高まってしまったことだ。
今回の日銀の追加緩和に向けては、民主党と自民党の一部の政治家は日銀法改正をちらつかせながら、強力に追加緩和を迫ったという経緯がある。
「政治家は日銀に圧力をかければ緩和ができるという誤った成功体験を持ってしまった」と草野豊己・草野グローバルフロンティア代表は指摘する。金融政策は糸であり、引き締めることはできるが、需要の押し上げはできないという。「金融政策は構造改革や潜在成長率を底上げする成長戦略推進までの時間稼ぎでしかない。政治家に戦略がない時、中央銀行に圧力をかけるのは世界共通」(草野氏)とのこと。

欧米日の順序で続いた金融緩和が景気を底上げすれば、世界に金融政策万能論が広がる懸念もある。しかしそれは世界を、後戻りできない債務膨張経済へ追い込む危険がある。
追加緩和後の2月17日、日本記者クラブで講演を行った白川総裁は、「日銀の長期国債保有残高が昨年末時点で66.1兆円となり、対名目GDP比で14.2%という高水準になっている。大胆に国債を買い入れているイメージが強い米FRBでも昨年末で10.8%、ECBは2.2%」と指摘したうえで、「財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)を目的とした国債買い入れは行わない」と明言した。
しかし、わずか1カ月足らずで、輸出企業の採算を10%以上も改善させた日銀の緩和効果を前に白川総裁の声はかき消されてしまったかのようだ。