ウォール街の勢力地図が変わる可能性

米銀モルガン・スタンレーやスイスのUBSなどの銀行は、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによって過去最も低い水準まで格下げされる可能性があり、ウォール街(米金融街)の勢力バランスが大幅に塗り替えられる恐れがある。
ムーディーズは2月15日、モルガン・スタンレーとUBSの格付けを3段階引き下げ、シティグループとバンク・オブ・アメリカ(BOA)もモルガン・スタンレーとともにジャンク級(投機的格付け)をわずか2段階上回る「Baa2」に格下げする可能性があると発表した。
格下げは資金調達と担保のコスト上昇を招き、最も低く格付けされた金融機関は、店頭デリバティブ(金融派生商品)の望ましい取引相手と見なされなくなるとアナリストや経営幹部らは警告する。
一方、JPモルガン・チェースドイツ銀行は、ムーディーズが最も大幅な格下げを実行した場合、世界の投資銀行上位9行で格付けが最も高くなり、さらに多くのビジネスに恵まれることが予想される。欧州債務危機の世界的な感染拡大の不安に投資家が対処せざるを得ない中で、両行は債券トレーディングで既に最大のシェアを握り、昨年最もシェアを伸ばした。

サンフォード・C・バーンスティーンのアナリスト、ブラッド・ヒンツ氏は「比較的強い格付けを維持すると予想されるJPモルガンゴールドマン・サックス・グループが勝者だ。その一方で、シティとBOAモルガン・スタンレーが敗者となろう。格下げはデリバティブの取引相手としてその金融機関を受け入れる市場参加者の意欲を損なう。債券で最も利幅の高いビジネスの一つがデリバティブだ」と指摘する。
ムーディーズが現在、格付けの見直しを行っている17行に対して、2月に言及した最大限の格下げを実施した場合、世界の投資銀行の最上位層と最下位層との格差が拡大する。JPモルガンドイツ銀行クレディ・スイス・グループがジャンク級を5段階上回る「A2」、ゴールドマンとバークレイズ、UBSがそれよりも一段階低い「A3」と見込まれるのに対し、モルガン・スタンレーとシティ、BOAはトップグループを3段階下回ることになり、JPモルガンモルガン・スタンレーの差は過去最も大きくなる。
事情に詳しい関係者2人が格付け会社との協議の非公開を理由に匿名で語ったところでは、金融機関はムーディーズが5月になるまでは格付け変更を行わないと考えている。同社は可能性を示唆している格下げの一部ないし全てを実行しないこともあり得る。

ムーディーズの格下げが、市場のシェアを拡大する銀行とそれを失う銀行との差別化を加速させる可能性もある。オッペンハイマーのアナリスト、クリス・コトウスキ氏がまとめたデータによれば、投資銀行上位9行の中で、昨年のトレーディング収入が06年を上回ったのは、ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)率いるJPモルガンだけであり、BOAはトレーディング収入が最も減少した。コトウスキ氏の06年の数字には、後に他行に買収されるベアー・スターンズやメリルリンチの収入も含まれている。
JPモルガン投資銀行部門のジェス・ステーリーCEOは2月のプレゼンテーションで、最も健全な取引相手の一つという評価によって同行が顧客を増やしていると説明。「われわれが安全な取引先だという理由で金融危機に伴う顧客フランチャイズの著しいシフトが起こった」と述べた。シティのキース・ホロウィッツ氏を含むアナリストらは、長期のデリバティブ取引などが銀行間の格付け格差の影響を受ける公算が最も大きいと分析している。