5月天井説が今年も現実味

今、株式市場に関する米メディアの記事で頻繁に使われている表現がある。「5月に売るべきか?」。調整色が強まったためか、一歩踏み込んで「4月に売るべきか?」という見出しまで出始めた。
ネタもとは米国の相場格言。正しくは「5月に売り逃げろ(Sell in May and go away.)」という。3日のUSAトゥデーは1928年以来の実績を基に、11月-翌4月の株の運用成果が、5-10月を上回ってきたという分析を紹介した。いわば「5月天井説」だ。

経験則だけで理論的な裏付けに乏しい格言だが、10年も11年も的中した。それも、夏場にかけて先進国の景気の底割れ懸念という超弱気を伴ってきた。
だからこそ、専門家も警戒を解くわけにはいかない。米調査会社ISIのエド・ハイマン氏もその1人。独自の分析手法を武器に、米金融誌の人気エコノミストランキングで、32年も連続で首位を続けるカリスマだ。
最近のハイマン氏の分析の目玉は、粗鋼生産や消費者心理の統計で構成する「二番底指標」。過去2年、景気悪化のシグナルを早い段階から放っていた17の統計を選び、「その時」に備えて定点観測をはじめている。
直近では、悪化を示しているのは2統計にすぎない。だが、ハイマン氏は今週、「安心するのは早い」と顧客に警告した。「過去2年とも指標は4月にピークアウトしている」と。

ハイマン氏の指標は米景気が中心だが、市場関係者は財政危機に揺れる欧州情勢にも気をもんでいる。豊島逸夫氏は、今月実施のフランスの大統領選挙が株売りの引き金になりえると解説した。
英銀大手ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)で、欧州金融市場の投資戦略を担当するハービンダー・シアン氏も、先月東京を訪れて仏大統領選への警戒を訴えていた。「現職のサルコジ大統領が対抗馬のオランド氏(社会党前第1書記)に負ければ、フランスの国債格付けは引き下げられる」。
オランド氏は、年金支給年齢の引き下げなど、国の財政を圧迫しかねない社会福祉策を提唱している。「メルコジ」と言われたメルケル首相率いるドイツとの蜜月関係に亀裂が入り、欧州の政治情勢が不透明になる懸念も出てくる。

日経平均株価は4日、欧米の株安に引きずられる形で1万円を割り込んだ。海外で「5月の売り」、さらにそれを見越した前倒しの売りが今年も膨らめば、日本株にも売り圧力が加わるだろう。米国のハイマン氏のように、点検リストを作って構えておく意味はある。
だがもっと重要なのは、売りを跳ね返すための方策のリスト。つまり、日本が逆風を突いて成長していく展望にほかならない。上場企業は、60兆円に及ぶ手元資金をどう活用するのか。政治家や政府は財政悪化を食い止めて長期金利の急騰懸念をぬぐい去ることができるのか――これらの姿勢を世界の投資家に示すことが、売りに打ち勝つ条件に違いない。