ウォール街はいまだ危機の中

ウォール街は、欧州情勢がいくらか安定を回復したこともあって銀行の経営は今年に入り昨年末に比べてかなり改善し始め、第1四半期には合併・買収(M&A)と株式取引を除くすべての分野で収入が増えた。
しかし過去2年は両年とも偽りの夜明けに裏切られてきた。また、たとえ今の復調ぶりが継続しても、ほとんどの投資銀行はトレーディングやM&Aの取り扱い案件を大幅に増やさない限り、合格点の収益を上げられない。

このところの経営の持ち直しなど取るに足らないというわけではない。トムソン・ロイターのまとめによると、第1・四半期の債券発行引き受けの手数料収入は前期比で87%も急増した。投資家が大挙して高利回り債などリスクの高い証券に戻ってきたからだ。相場が持ち直して資産価格も上昇しており、銀行はヘッジがうまく機能してさえいればバランスシートからいくらか利益を生み出せたはずだ。
トレースのデータによると、こうした効果で固定金利商品のトレーディング収入も増加し、高格付け社債の1日当たりの取引高は40%増加した。株式発行引き受けの手数料収入も、新規株式公開(IPO)市場が生彩を欠いたにもかかわらず27%増えた。

ただすべてがバラ色というわけではなく、M&Aの手数料収入は約25%落ち込み、株式の取引高は8%減少したが、それでも純利益が大幅に改善したのは間違いない。例えばジェフリーズの純利益は今年2月までの3カ月間に大幅な増収により60%増加した。
しかしほとんどの銀行が月並みな数字に甘んじるのはほぼ確実だ。ジェフリーズの株主資本利益率(ROE)は9.5%にすぎず、恐らく資本コストを割り込んだだろう。クレディ・スイスのアナリストチームによると、ゴールドマン・サックスのFICC(債券・通貨・コモディティ)部門の収益はほぼ3倍増の37億ドルとなるが、ROEはわずか11%になりそうだという。

もちろん最近の四半期業績と比べれば良い内容で、これら銀行の株価純資産倍率(PBR)が最近、1倍に向けて上昇していることは正当化される。だが、目を見張るほどではない。欧州は引き続き不安定で、規制強化が徐々に進み、経済の歴史は繰り返すものだということを考えれば、ウォール街はまだ危機を脱してはいない。