人民元が対ドル変動幅を拡大

中国は対ドルでの人民元取引で07年以来となる変動幅拡大に踏み切る。人民元の先高感が後退する中で、貿易相手国からの元高加速を求める圧力を和らげるのが狙いのようだ。
中国人民銀行(中央銀行)がウェブサイトに14日発表した声明によれば、人民元の許容変動幅を16日から拡大し、人民銀が毎営業日設定している中心レートからの変動幅を0.5%から1%にする。人民銀が前回変動幅を拡大したのは07年5月で、0.3%からの拡大だった。
温家宝首相が今年の中国成長率目標を低めに定め、欧州のソブリン債危機が輸出に悪影響を与えていることから、人民元への上昇期待はここ半年間で後退。人民元は2月10日に18年ぶりの高値となる1ドル6.2884元に達したが、米国の政府や議会は中国が対外貿易で有利となるよう不当に低く人民元相場を抑制し続けていると主張している。

バンク・オブ・アメリカの陸挺エコノミストは人民銀の発表後、「中国は今年、人民元の大幅な上昇も下落も回避するだろう」と述べ、その理由の1つに世界経済の「不確実さ」を挙げた。
人民銀は声明で、変動幅拡大は「市場の需要」を満たし、上下双方向の弾力性を高めるためだと説明。需給に基づき通貨バスケットを参照し運営されている人民元の管理変動相場体制を改善させるものだとしている。人民銀は中国経済と金融市場の安定を維持するため「基本的に人民元を適応できる均衡の取れた水準に維持する」という。

三菱東京UFJ銀行の通貨アナリスト、クリフ・タン氏は、人民元が年末までに1ドル=6.17元に達するとの見通しを据え置くと述べた。
INGファイナンシャル・マーケッツのアジア担当チーフエコノミスト、ティム・コンドン氏は、今回の変動幅拡大について、中国にとって01年の世界貿易機関(WTO)加盟と同じような「重要」な節目となる資本勘定自由化の初期段階にあることを示している可能性があるとの見方を示した。
同氏は電子メールで、上下双方向の為替相場リスクを高めることで、中国は人民元を投機対象とされにくくすることが可能だとコメント。また、この日の発表は人民元は「均衡」に近い水準だとしていた政府の認識を「具現化」したものだとも論じた。
HSBCホールディングスのシニア通貨ストラテジスト、ダニエル・フイ氏は先月6日、「政策当局が為替相場制度の上下双方向での弾力性とボラティリティ(変動性)を高める機会を捉える可能性がある」と指摘していた。

人民銀の周小川総裁は3月12日、人民元の相場決定において市場の役割が拡大しており、元相場は国際収支の影響も受けていると説明。国営の新華社通信が同月5日に報じたところによれば、周総裁は市場の需給をより反映させるため人民元の変動幅を「適切」に拡大する可能性があると述べた。