長生きのリスク(前編)

金融機関は長生き対応の戦略を急いでいる。今月に入り、「死なないリスク」に備えた新商品やサービス尚を相次ぎ打ち出した。
「高齢者人口が増え、自助努力の必要性が高まる中で『長生きリスク』に対応したサービスが必要だ」。3月23日、日本生命保険の筒井義信社長は新経営戦略の発表会でこう語った。

従来の保険商品は死亡保障を土台に医療や介護の特約を付ける「セットメニュー」だったが、新しい商品体系「みらいのカタチ」では、契約者がアラカルト方式で商品を選べる「単品型」に変えた。備えるべきリスクは、家計を支える大黒柱の死亡リスクだけでなく、長生きゆえに生じる多様なリスクであるとの発想だ。
例えば、これまで死亡保障とセットだった介護保険も単品化すると同時に、支給要件を従来の「要介護3」から「要介護2」へ緩和し、より軽症でも保険金が下りるようにした。
他にも東京海上日動あんしん生命保険が「長生き支援終身」として、「要介護2」でも保険金が受け取れる商品を販売中。朝日生命保険は要介護度に連動して保険金額が増える介護保険を4月に発売する。
SBI証券が16日に始めた、「定期売却サービス」は、長生きに備えて、投資家が資産を上手に取り崩していくためのサービスだ。
月1,000円から積み立てられる投資信託をそろえる同社は、昨年末に「じぶん年金プロジェクト」と題した営業を開始。投資家が決めた目標年に向け、株などリスク資産の比率を自動的に少しずつ減らしていく「ターゲットイヤーファンド」と呼ばれる投信を導入した。目標年に到達したら、資産の6割を国内債券で運用する安定運用に移る。16日に始めた定期売却サービスは、こうした運用を続けつつ、投資家が決めた額だけ投信を月々少しずつ売却し、現金化することをパッケージにした商品だ。

上手な取り崩しをコンセプトにした投信は、新光投信が昨年10月、目標払い出し型の投信で先んじた。運用成績が悪くても定率で分配金を投資家に払い出していく仕組みで、「元本取り崩しを初めから明確に謳った日本初の商品」(石原伸彦商品企画・開発グループ長)という。高齢者の需要を取り込み、純資産総額は21日時点で1100億円を超えてきた。
ある生保系運用会社の幹部も、「定時解約」や「定期解約」と銘打った投信を開発中と打ち明ける。投信の1分野として、今後定着する可能性がある。

(中編へ続く)