長生きのリスク(中編)

(前編より続く)

 米国ではすでに、accumulation(積立)に対応し、decumulation(取り崩し)という新語ができるほど、老後に備えた投資家の取り崩しニーズが高まっている。
フィデリティやバンガードは数年前から取り崩しに焦点を当てた「払い出しファンド」を米国で販売している。
米運用大手アライアンス・バーンスタインの後藤順一郎戦略ソリューション室長によれば、運用と保険を合体させ、停年に向けて積立資産を原資に終身年金保険を徐々に買っていく商品もある。

長寿社会に即した「長生きするほど得する保険」を作る試みは、実は古くからある。17世紀にイタリアの銀行家トンチ氏が考案し、実際にフランスで導入された「トンチン年金保険」は、通常「死んだらもらえる」保険の逆で、「生きたらもらえる」保険だ。契約者が一定額を出し合って、そこから生じる利息を毎年生存者の身で分ける。日本の国会でもかつて取り上げられたことがあったが、「他人の意で自分を利する商品だ」と批判され、実現しなかった。

金融市場を使って長生きのリスクのヘッジを模索する動きもある。たとえば、仏BNPパリバが04年、欧州投資銀行(EIB)を発行体として組成した「長生き債」。債券保有者への毎期の支払いを、英国の男性の平均的な生存率(生存率インデックス)に連動させる。年金基金などが長生き債を購入すれば支払増加リスクを一部ヘッジできるが、本格的な普及には至っていない。

(後編へ続く)