長生きのリスク(後編)

(中編より続く)

長寿時代には「お金の寿命」を延ばす工夫が欠かせない。まずは、「ゴールは遠い」と心得よう。国立社会保障・人口問題研究所が1月に発表した人口推計によれば、2060年には、日本人の平均寿命が男性で84.2歳、女性は90.9歳まで延びる。これは幼児期の高い死亡率も反映した数字なので、女性なら実際は「人生95年」が現実味を帯びてくる。

仮に夫婦2人とも95歳まで生きるとしよう。老後の生活にいったいいくらかかるのか。高齢夫婦世帯の1か月の消費支出は約25万円だから、60歳以降の35年間、生活費だけで1億800万円かかる。
これに、趣味、旅行代、住宅リフォーム、介護費などを加えると、ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏の試算によれば、合計1億3100万円となる。
一方、公的年金の受給額の試算は夫婦で9418万円。差し引きすると3682万円不足する。
老後資金の目標額は一般的に「60歳定年時に3000万円」といわれているが、人生95年時代のマージン・オブ・セーフティー(安全性のゆとり)を考慮すると、必要額は4000万円になる。

では、60歳で4000万円を確保してあれば、すべて問題なしかというと、そう簡単でもない。これまで定年をゴールに資産を積み立てる「上り坂」に集中していた関心を、上手に取り崩していく「下り坂」に移す必要がある。
60歳時点で4000万円あっても、もし毎月15万ずつ引き出す一方なら、82歳で底をついてしまう。毎月10万円に節約しても93歳までしかもたない。
必要なのは、やはり運用だ。フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長は、60-75歳を「使いながら運用する期間」と位置付ける。
役立つのが、資産残高に対する率で把握する「定率取り崩し」の考え方だという。その理由は、運用収益率とセットで管理できるからだ。例えば、年3%で運用する一方、年4%ずつ引き出し、差し引きマイナス1%のペースで資産が減ることが感覚的にわかる。
もし75歳まで「年3%運用-年4%引き出し」ができれば、それ以降は15万円を低額で取り崩しても資産の寿命は94歳まで延びる。個人差もあるが、80歳まで定率管理ができれば、98歳まで枯渇しない。もちろんこの期間の運用収益率が上がればさらに余裕が生まれる。「年4%運用-年4%引き出し」で80歳まで乗り切れば、以後は102歳まで持つ計算だ。