最悪の場合、欧州の銀行が資産を3兆8000億ドル減らす可能性

欧州各国政府がソブリン債危機の拡大阻止に向けた公約を守らなかったり、金融ファイアウオール(防火壁)で封じ込められないほどの衝撃が発生した場合、欧州の銀行は13年までに資産を最大で3兆8000億ドル相当減らし、それが経済成長を阻害する可能性があると、国際通貨基金(IMF)が指摘した。

IMFは18日公表した最新の世界金融安定報告(GFSR)で、このような事態を想定した場合、2年後のユーロ圏の国内総生産(GDP)は現在の推定値よりも1.4%低くなると予測。基準となるシナリオでも、銀行の合計のバランスシートの縮小幅は最大2兆6000億ドルとした。仏BNPパリバドイツ銀行など58行を対象に分析した。
IMFは、「これまでのところ、デレバレッジ(借り入れ依存の解消)は主として、資本基盤の強化と非中核事業の縮小を通じて進められており、このため世界への影響は対処可能な程度にとどまっている」とした上で、「大規模で積極的なバランスシートの削減が同調的に進む事態を回避することが引き続き肝要だ。これは、欧州のみならず世界の資産価格や信用供与、経済活動に深刻な打撃をもたらす恐れがある」と注意喚起した。

欧州各国政府が危機対策を講じ、欧州中央銀行(ECB)が金融市場の緊張緩和に寄与したものの、IMFは欧州債務危機の再燃が世界的な経済成長への最大のリスクだと認識。政策当局者にとっての課題は、銀行が当局の増資要請に応じつつも企業や個人への融資を続けるようにすることだと指摘した。
IMFによると、同報告で取り上げた銀行は昨年10-12月(第4四半期)に資産を合わせて約5800億ドル減らした。

同報告は、各国政府が銀行のデレバレッジの影響を限定的にしようと思うなら、投資家の信頼感回復のために合意した措置を実行し、延長すべきだと指摘。内需を可能な限り支えながら財政赤字を引き続き削減することや、銀行再編、欧州救済基金からの直接の資本注入を例に挙げた。
IMFは「効果的な通貨同盟となるためには、統合を深めることが必要だ」とした上で、「事前のリスク分担を成し遂げるには財政協定の見直しが必要になる」と指摘し、それをしなければ「各国の資金調達は引き続き非常に難航し、流動性危機が支払い能力への懸念へとエスカレートし得る状況は今後も続く」と分析した。

IMFのチーフエコノミスト、オリビエ・ブランシャール氏は17日の記者会見で、長期のユーロ共同債は時期尚早とみられるものの、年限1年未満のものは導入の試みとしては良いだろうと発言した。
IMFのラガルド専務理事は、深刻化する欧州債務危機の世界経済への波及を阻止するため、現在の融資能力を現在の約3800億ドルから引き上げようとしている。この2日間に日本やデンマークなどが新たな資金拠出を表明した。

IMF報告は、「ユーロ圏を中心に多くの国が、より安全な財政基盤を目指して財政再建のプロセスに乗り出したが、この取り組みには長い時間を要する」とし、「その間、各国は投資家心理の急変というリスクにさらされ続ける。心理が急変すれば、低い借り入れコストと手頃な金利の債務という良い均衡から、利用できなくなるほど資金調達コストが急増する悪い均衡へと移り、デフォルトリスクが再浮上する」と説明した。
スペイン10年債の利回りは、ラホイ首相が同国は今年の財政赤字目標を達成できないと表明した3月2日以降、これまでに1ポイント余り上昇した。
IMFは同報告で借り入れコストを分析し、イタリアとスペイン両国が極めて困難な状況に直面していると指摘。現在の利回りが持続した場合、イタリア債務の平均金利は16年までに5.3%に上昇すると予測した。

欧州以外については、日本と米国に言及。両国は「債務の急増にもかかわらず、引き続き極めて低い金利の恩恵を受けているが、両国は債務増加のために、基準となるシナリオの下でも一段と脆弱になっている」と分析。「財政問題は決してユーロ圏に限定されない」と指摘した。
IMFは、欧州銀のデレバレッジの新興市場への影響はこれまでのところ対処可能だとしながらも、国境を越えた融資が一段と減少するリスクがあるとし、その悪影響に最も弱いのは欧州の新興国だと説明した。