機関投資家が役員報酬支払いを拒否

機関投資家が米企業の取締役会に対し、役員への過大な報酬支払いを控えるよう圧力をかけつつある。そして米金融大手シティグループの株主が17日に、パンディット最高経営責任者(CEO)に1500万ドルの報酬を支払う案を株主総会で否決したことで、言い分に耳を傾け始める経営幹部が増えそうだ。
シティの場合、パンディットCEOの報酬を世界的な金融危機以前とほぼ同じ水準に戻す案を、株主の55%が拒否した。企業統治の専門家によると、この不信任決議は業界基準を達成してこなかった企業の高額報酬に、株主が不満を抱いていることを表している。

ハーバード大学のジェームズ・ポスト教授(経営管理学)は「われわれが景気後退を抜け出すのに苦労しているのに、CEOの報酬は企業の業績の伸びよりもずっと大きな上昇を続けている」と指摘した。投資家によると、既に賃金の格差をめぐる怒りが渦巻いている米国でこの問題はいつ火がついてもおかしくない状態になっており、多くの取締役会が注意を向けている。
T・ロウ・プライスの金融サービス投資ファンドのポートフォリオマネジャー、エリック・ベイエル氏は「この件に関する米国のカルチャーは変化した」と指摘。富の格差是正を求めて昨年秋に発生した「ウォール街を占拠せよ」運動のような流れと一般市民の行動を、取締役会が後追いすることになるとの見方を示した。

10年に成立した金融規制改革法によって、株主は企業の役員報酬に関する投票権を取得した。しかし議決は勧告にとどまるので、事態を大きく変えるのは疑問とする関係者が多かった。今回のシティの拒否決議にも拘束力はない。それでも企業統治の専門家は、シティの取締役会が議決を無視するのは難しいとみている。
昨年は役員報酬案が株主に拒否された企業はほんのわずかだったが、今年は企業がより厳しい試練に直面する可能性がある。機関投資家に獲得した投票権を活用するための十分な準備期間を与えられたからだ。カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)の企業統治担当ディレクター、アン・シンプソン氏は「株主に熱意がなかったわけではない。昨年はカルパースのような大株主がいずれも、こうした提案を分析するための枠組み作りに取り組んでいた」と話した。

昨年はラッセル3,000指数構成企業2,700社のうち、役員報酬案に株主の過半数の支持が得られなかったのは41社にすぎなかった。ただ専門調査会社によると、それ以外に支持率が70%もしくはそれ以下だったところが160社あった。これらの企業は、報酬体系を改革しなければ株主のより強い抵抗に直面する恐れがある。
いくつかの大手資産運用会社も既に、役員報酬問題でより行動的な姿勢を打ち出しており、報酬の修正を求める株主決議を支持している。調査会社のファンド・ボーツによると、フィデリティ・インベストメンツは昨年、報酬に関する株主決議の21%を支持した。この比率は10年の8%を上回るもので、09年はわずか0.3%だった。
カルパースの委任状投票担当責任者トッド・マットリー氏は、カルパースが昨年201件の報酬案に反対したことを明らかにするとともに、これらの企業の取締役会はカルパース側の懸念に反応していると指摘した。

マットリー氏によると、役員報酬案を50%を超える株主から拒否された企業は、突き付けられた課題に取り組み、中身を精査してどの部分が問題だったかを究明している。