経営者による自社株売りの背景

24日の米株市場ではダウ工業株30種平均が反発。IBMが増配と自社株買いを発表したことを好感、指数を押し上げた。一方でハイテク株中心のナスダック総合指数は5日続落となった。

高値圏での調整色を強めるハイテク株。指数ではアップル株の影響が大きいが、ここへ来てささやかれているのが、経営者など「企業インサイダー」による自社株売りの多さだ。業績の先行きに表向きは自信を示しても、彼らの財布を見れば別の方向を考えているかもしれないのだ。
経営幹部が自社株を売買した場合、米証券取引委員会(SEC)に届け出る義務がある。違法なインサイダー取引はもちろん論外。ただ、子供の教育費や家の購入など個別の理由にせよ、まだ上がると見るなら、売るのはもう少し待つだろう。
売りが増えるのは、これ以上の株高にそう期待してないと経営側が見ているサインになる。逆に自社株買いが増えてくるなら、株価は安いとみていることになる。

経営幹部による自社株売りが顕著なのが、クラウド大手のセールスフォース・ドットコムやネット旅行予約のプライスライン。セールスフォースの場合、2月下旬から顕著になっており、最高財務責任者や副会長ら経営幹部が、ときに百万ドルを超えるような規模で売却する例が相次いでいる。年初に100ドル割れだった株価はここ数カ月、160ドル手前で足踏みだ。
もちろん、業績が振るわず株価が急落、経営陣が逆に自社株買いに動き出す例もある。しかし、それは少数派。米調査会社トリムタブスによれば、年初から4月第2週までの累計で、企業インサイダーの自社株売買は160億ドル近くの売り越しだった。

振り返れば、金融危機のまっただ中の09年春に、企業インサイダーは自社株買いに動いた。株価が急落した昨年8-9月にも買いが売りを上回った。市場の流れと逆張りに動く傾向が見て取れる。
足元の業績は堅調でも、年後半に視線を伸ばせば不透明要因は多い。米国は11月に大統領選があり、減税策が切れる年末にかけて財政審議が進まないリスクがある。欧州債務問題もいつ火が再びつくかわからない。原油高も気がかりだ。「経営者が先行きに自信を持てず、短期志向に陥る懸念」(米ブラックロック)がささやかれる。企業インサイダーの自社株売りはその前触れだろうか。