1億総ユニクロ化で曲がり角のファストリ

ファーストリテイリングを支えてきた国内ユニクロ事業の低迷が続いている。積極展開するアジアの収益は順調に拡大しているものの、全社利益の8割を占める国内事業の下振れを補うには至っていない。
日本人のほぼ全員がユニクロ製品を着るようになった今、定番服を安く売るビジネスモデルは曲がり角に来ている。同社は銀座に続き、国内で旗艦店を増やす方針だが、客数の減少に歯止めがかからない中での大型店の展開は、経営に致命傷になりかねないとの指摘も出ている。

「成長市場として海外に軸足を移しており、国内ユニクロの月次に一喜一憂しないで欲しい」。同社幹部はそう不快感を示すものの、このところ月初に国内ユニクロ既存店売上高の不調が発表されると、翌日の株価が下落するというパターンが繰り返されている。ファーストリテイリングの営業利益は国内ユニクロ事業が約80%を占めており(12年8月期計画)、国内の不振を受けて市場がネガティブに反応するのはやむを得ない。

苦戦の最大の要因は客数の減少だ。12年8月期は10カ月が過ぎた時点で、客数が前年同月を上回ったのは2カ月しかない。あるアパレル関係者は「(ユニクロの)特徴はベーシックな服。すでに国民の約90%超が何らかのユニクロ製品を保有しているとも言われており、目立つヒット商品が出ない中で、購入する客が減っているのは当然」と指摘する。ヒートテックのように、あたらな機能を加えてゼロから購買を呼び起こさない限り、国内での成長は厳しいという見立てだ。みずほ証券アナリストの高橋俊雄氏は「商品戦略の見直し効果に注目したい」と話す。
会社側も十分に認識しており、春先の不振は夏物中心の品揃えの中で気温が上がらなかったこと、話題性のある商品の柱が出ていないことと分析する。そのうえで「トレンドを織り込んだベーシックな商品を開発していくことを経営課題としてとらえている」(岡崎健・グループ執行役員CFO)と、定番商品の大量販売から脱却する方針を示唆している。
しかし、トレンドを織り込む戦略に転換すれば、逆にユニクロの強みを失うことになりかねない。大量発注・計画生産のユニクロの特徴は「作って売る」こと。発注から店頭に陳列するまでの時間短縮を図ることで「売れたものを作る」他のアパレル各社の手法とは一線を画す。マーケティングを専門とするコア・コンセプト研究所の大西宏CEOは「消費は回復しており、今ままでのユニクロのビジネスモデルが合わなくなっている」と語る。「ユニクロのビジネスモデルは消費者が求めるこまかなトレンド変化には対応できない。この病は根深い」と指摘する。

ユニクロは今年3月の東京・銀座店に続き、渋谷や名古屋、仙台など国内に次々とグローバル旗艦店を開店する。売り場面積1,000坪級の超大型店を100店舗展開する計画で、柳井正会長兼社長は「日本は大きな市場なのでまだまだ成長できる余地がある」と話すが、大西氏は「投資とリターンが見合わず、致命傷になるかもしれない」と懸念する。大型店を埋めるだけの商品がなければ、客足がますます遠のく結果となりかねない。「活路は海外に求め、行き着くところまで来た国内は縮小均衡で、効率化を求めたほうが良い」と、戦略の転換を促す。
ファーストリテイリングは7月6日に9-5月期決算を発表した際、国内ユニクロ事業の不振を反映し、8月通期の連結売上高を9415億円から9295億円、営業利益を1380億円から1315億円へとそれぞれ引き下げた。下方修正後も2ケタの増収増益を計画しており、決して成長企業の看板を下ろしたわけではないが、野村証券がレーティングを引き下げるなど、市場の期待を下回る成長にとどまっている。7―8月の既存店売上高計画は前年並みを維持しているものの、前年7月はクールビズ関連が好調で前年比11.2%増とハードルが高く、2年連続の通期前年割れも現実味を帯びてきた。

決算の翌日に開いた中途採用を対象にした会社説明会「ファーストリテイリング希望塾」。柳井会長は約800人の出席者を前に、仕事や生き方について熱弁を振るった。「活路は世界にある」と話す柳井会長は、中国からインドにかけてのアジア圏が世界の成長センターになると語り、アジア重視の展開、世界一を目指す意気込みをあらためて強調した。およそ40分、日本市場の将来性に触れることは一度もなかった。
「20年に売上高5兆円、世界一のファッションブランド」―――。同社が掲げるこの目標に向けて、日本市場の位置付けを見直す必要に迫られるかもしれない。