中国の銀行と規制当局との騙し合い

中国の銀行は融資や預金残高に関する規制を満たすため、四半期末ごとに預金データを取り繕い、規制を強める当局との「騙し合い」を繰り広げている。
こうした風潮が始まったのは昨年。その結果、銀行の流動性や安定性が実態以上に強調され、景気減速が進む中で中国の金融システムが直面しているストレスが過小評価される恐れが生じている。
ロンバード・ストリート・リサーチのディレクター、ダイアナ・チョイレバ氏は「中国の金融システムの安定を脅かしかねない要因があるとすれば、それは銀行の流動性だ」と指摘している。
中国政府は銀行融資について、預金残高の75%に規制している。最近は預金の伸びが鈍化しているため、銀行は融資規制に対応する上で新たな資金を調達するか、あるいは景気を刺激するため融資拡大を促す政府の方針に反し、貸し出しを絞らざるを得なくなっている。

預貸率(預金残高に対する融資残高の比率)に関する規制を守るために銀行が用いている手法の一つは、四半期末が近づいたタイミングで満期を迎える短期のウェルスマネジメント商品(WMP)を販売する方法。四半期最後の数日間に満期を迎えれば、それは自動的にキャッシュに転換され、投資家の預金口座に繰り入れられる。
それ以外にも、銀行は「預金ブローカー」を活用している。それは多額のキャッシュ預金を持つ個人あるいは企業で、彼らは随時、高い金利を求めて預金を銀行間で移動させている。
銀行による預金獲得競争は中国のマネーマーケットにも影響を及ぼしている。つまり、毎月最後の週に短期のインターバンク金利が急上昇する傾向が現れ、特に四半期末にそうした動きが顕著に見られる。
例えば、6月12日に2.55%だった7日物債券レポ金利の加重平均値は6月27日に4.40%に急騰。2月24日以来の高水準に達した。金利の急騰、そして急低下といったパターンは、毎月のように繰り返される。
リテール預金の動きも同じ傾向が見られる。四半期末ごとに預金残高が急増し、その1-2日後には急減する。それは、新たな四半期になれば顧客が銀行から預金を引き出し、高利回りのWMPに資金を戻すためだ。
「4大国有銀行」の関係者はそうした慣行について口を閉ざし、銀行監督当局によるあらゆる規制を遵守している、とだけコメントしている。

これまでは中国の銀行には無限とも思える低コストの預金が流入し、銀行は思うままに貸し出しを伸ばすことが可能だった。だが、今やそうした環境は変化しつつある。
政府は預金金利の上限を基準貸出金利の1.1倍に規制しているため、高利回りを求める資金はミューチュアルファンド、不動産、銀行が販売するWMPなどに流れ、預金の伸びが鈍化している。
その結果、前月比の人民元預金残高が減少するケースが頻発するようになり、02年から10年までは1度しかそうした現象が起きなかったのに対し、昨年以降は5回も発生した。
それは資金調達を国内預金に依存している中国の銀行にとって、とりわけ深刻な問題となる。負債に占める預金の比率はJPモルガンがわずか53%なのに対し、中国工商銀行では82%に達している。
銀行は既存顧客をつなぎとめ、新たな顧客を獲得するため、時にはリターンが10%に達する場合もある短期で高リスクの投資商品であるWMPの販売に着手した。
WMPの市場規模は急拡大しており、バークレイズによると、今年は22兆元に上るWMPが発行される予定。
銀行はそれらのWMPを、預金残高を膨らませる手段として使い始めた。問題は、WMPは通常の預金に比べ「定着度」が低く、投資家が高利回りを求めて頻繁に出し入れしがちなことにある。

一方、市場関係者によると、インターバンク市場で資金の「出し手」となっている中国工商銀行中国銀行中国農業銀行中国建設銀行の「4大国有銀行」は、月末は貸し出しに慎重な姿勢をとり始めた。
彼らは全国に支店網を持ち、強力な預金ベースも備えているが、他の銀行が月末に預金を集めるためさまざまな手法を駆使しているのを認識し、自分たちの流動性が苦しくなるのを避けたいと考えているためだ。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの金利ストラテジスト、エサン・モウ氏は「(インターバンクローンの)需要はほぼ固定されているが、大手銀行が貸し出しを絞れば、7日物レポレートの急上昇を招くことになる。月末や四半期末には、中小銀行は死に物狂いで預金をかき集めようとする。大手銀行ですらライバル行に預金を奪われるのを恐れ、月末には貸し出しに慎重になっている」と語っている。