緒に就いたばかりのインサイダー取引対策(前編)

インサイダー取引は株主と発行体企業を犠牲にして、トレーダーに利益を許し、証券会社の引き受け業務を拡大する悪しき慣行だ。日本ではこのところインサイダー取引が相次いで摘発されているが、ほとんど真相には迫れていないと、海外メディアは見ている。
それでも、金融当局によるインサイダー事案の摘発は、世界第2位である日本の株式市場の信頼をさらに揺るがせた。オリンパスの巨額損失隠し、AIJ投資顧問の偽計事件と続く不祥事が投資家を遠ざけ、日経平均株価は89年のピークを77%下回っている。

証券取引等監視委員会が3月以降に摘発した5件のインサイダー取引では、トレーダーらが10年の公募増資公表前に引き受け業者から得た情報に基づいて株式を空売りし、金融庁は課徴金を科した。野村ホールディングスが自社のセールス担当者らによる情報漏えいを認めたことを受け、少なくとも2社の顧客が同社を主幹事から除外した。
早稲田大学大学院で証券規制などを教える佐賀卓雄・日本証券経済研究所理事は、「日本では2、3年前からインサイダー取引が問題になっていた。米国ではここまで長く野放しにはしないだろう」と述べ、金融当局の対応の遅さを指摘。さらに、「インサイダー取引は今もなお、日本の市場で起きていると考えられる」と語った。
監視委や金融庁は現在、10年に起きたインサイダー取引事案を熱心に摘発し、実績を示そうとしている。AIJ問題では、これまで投資家から度重なる情報提供があり、また同社への検査を行っていたにもかからず、当局は9年近くも同社が虚偽の運用実績を示してきた事実を見過ごしてきた。オリンパスも長年にわたって損失隠しを行ってきた。当局への批判が強まったのとタイミングが重なっている。
インサイダーによる空売りは内部情報に手の届かない投資家に損失を負わせるばかりでなく、企業の資金調達を妨げることから、当局はこれを看過できないと、コンサルタントのロバート・ボックスウェル氏は指摘する。

マレーシアのコンサルティング会社、オペラアドバイザーズのディレクターで日本での在住経験のある同氏は、「この種のインサイダー取引は日本株式会社にコストを負わせる」とし、「不正を正すよう求める米欧からの抗議を何年も無視してきたが、日本の当局もやっと取り締まりに本腰を入れ始めた」と話した。
松下忠洋金融相は10日の閣議後、会見でブルームバーグ・ニュースの質問に対し、今春以降のインサイダー取引事案の摘発など当局の対応について「十分であるかと言われたら、そうとは言えない」と述べた上で、「根の深い問題もあると思うので、引き続き強い意志と強い関心を持って、しっかりと対応していく必要がある」と強調した。
金融庁は先々週、日本企業の引き受け業務を手掛ける内外12の証券会社に対して法人関係情報の管理体制を自主点検するよう指示した。12社にはゴールドマン・サックス・グループやシティグループドイツ銀行、UBS、バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチなどが含まれる。

(中編へ続く)