電機株をめぐる、逆張り個人投資家 vs. 定石機関投資家

シャープが3536万株、ソニーは1671万株――。20日時点の信用取引の買い残高(制度信用・一般信用の合計)が、両銘柄とも金融情報会社QUICKのデータをさかのぼれる95年7月以降で最高を更新した。NECも7000万株を突破、空前の水準に積み上がった。海外投資家や国内機関投資家が電機株を見限る中、個人投資家の信用買いは勢いを増している。株価急落の中で買い下がる個人は電機株に何を期待しているのだろうか。

家電各社を中心に、電機株が本格的に下げ始めたのが4月。もともとテレビ事業の採算悪化などで業績不安が強かったところに、南欧諸国の債務問題や米雇用環境の悪化、円相場の上昇といった悪材料が重なった。このため、当初は「外部環境が改善すれば株価もある程度回復する」との見方は少なくなかった。
しかし、4月中旬-5月に各社が前期決算を発表すると雰囲気が一変した。パナソニックの7721億円を筆頭に各社が巨額の最終赤字を計上、今後の業績見通しも不透明感が強い内容だったためだ。
専門家の間では「民生電機各社は『とにかく安い物が欲しい』という新興国の需要に対応できず、国際的な競争力が構造的に低下している。外部環境が改善しても業績は元の水準には戻らないだろう」(ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役)との見方が台頭。電機株の地合いは一気に崩れた。
そんな中で、個人は積極的に資金を投じ、瞬く間に買い手としての存在感を増してきた。個人が逆張りで民生電機株を買う理由は大きく3つありそうだ。

1つめは値ごろ感だ。シャープの足元の株価は262円で、年初に付けた今年の高値(690円)から6割下落。PBR(株価純資産倍率)が0.5倍を下回るなど、テクニカル指標も強い割安感を示す。ソニーは7月12日に1000円割れという歴史的な安値を付け、その後も一段安となり、25日には900円さえ割り込んだ。時価総額も上位50位以内から姿を消した。
投資指標云々より、「いくら何でも売られすぎ」と株価の絶対水準から安いとみる個人が増えているようだ。とりわけパナソニックも含め、ブランド力が高い家電メーカーに対しては「投資家の間でもファンが多い」(立花証券の平野憲一顧問)ため、復活を期待した押し目買いが入りやすい。

売られすぎた銘柄はその反動で一定の上昇が見込まれる。この反転時のサヤを抜こうとする個人も少なくない。いわゆる「リターン・リバーサル」の機運が高まってきたことも、2つめの理由として、個人の民生電機株買いに結びついているとみられる。
実際、26日の東京市場では目新しい個別材料がないにも関わらず、ソニーが5%高になるなど家電株はそろって上昇した。7月31日-8月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)や8月上旬の日銀の金融政策決定会合を控え、「日米で追加金融緩和の可能性が多少なりとも意識されるようになっている。足元では一段と売り込むのが難しく、逆に買い戻しの動きが出やすい」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)との指摘もある。

3つめの理由が業界再編期待だ。シャープは3月末に台湾の鴻海精密工業と資本・業務提携を発表し、9.9%の資本出資を受け入れた。一部の投資家は「さらに本格的な業界再編が起きても不思議はない。買収対象となった企業の株価が急騰する可能性もある」との期待を強めており、いわば一発逆転を狙った買いも入っているようだ。
今のところ民生電機株の買い残が増え始めた4月以降では、株価が大きく反転した局面はほとんどみられない。ネットの掲示板などでは「シャープを買い続けていた個人投資家がとうとう手じまい売りを出した」という事例が話題になっていた。買っても買っても下がるため、当然含み損は膨らんでいる。反転の機会が来るまで個人がどこまで辛抱できるか、我慢比べの局面が続きそうだ。

一方、機関投資家のスタンスは言わずもがなの売り。ある国内ファンドのマネージャーは「電機株を空売りしたおかげで、最近の下げ相場でも運用成績がマイナスにならずに済んだ」と明かす。海外投資家についても「『アジアの電機株を買うならば韓国サムスン電子や鴻海で事足りる』と考えるケースが多く、日本の民生電機株の買い意欲は薄れている」(外国証券)という。
今の業績動向を踏まえると機関投資家の運用姿勢は定石通りだろう。だが、想定より早く業績が底入れし、リストラ効果などが表れてくれば「持たざるリスク」を突きつけられるのは機関投資家のほうになる。電機株を粘り強く買い続ける個人と、離れゆく機関投資家。軍配はどちらに上がるだろうか。