実体のないマネー供給の副作用

世界的な超金融緩和を背景に、信用力の高い国の国債に資金が集中する「質への逃避」が進んでいる。なかでも欧州では、南欧諸国から資金が流出する一方、信用力の高い高格付けのドイツ国債などに資金が集中し、「マイナス金利」という異常現象が生じている。

7月18日に実施されたドイツの2年国債の入札では、平均落札利回りがマイナス0.06%とマイナス利回りとなった。ドイツ国債については7月11日以降、既発債についても3カ月物-3年物まで利回りがマイナスとなる異常状態である。また、ドイツと同じ「AAA」の高格付けのフィンランド、オランダでも国債の利回りがマイナスを記録した。
国債がマイナス金利ということは、金利を払ってでも当該国債を買いたいという投資家がいることを意味している。中央銀行により過剰なまでに供給された資金が行き場を失い、高格付け国債に向かっている様がみてとれる。ある意味で「国債バブル」が生じているといっていい。
同様の構図は日本国債にも当てはまる。日本の10年物長期国債の利回りは1%を下回る水準で、長期国債の利回りに連動する住宅ローン金利は史上最低水準まで低下している。

一方、こうした超金融緩和は、いろいろな副作用をひき起こすことが懸念される。この点について全国銀行協会の佐藤康博会長(みずほフィナンシャルグループ社長)が7月19日の記者会見で次のような示唆に富む指摘を行っている。
「超低金利の継続方針には問題をはらんでいると考えている。日銀の白川(方明)総裁もいわれているように、金融政策による景気刺激はある局面においては非常に伝統的に正しいものの、それ以上は効果が無くなる局面を迎えることもあり、日本のバブル崩壊後のさまざまな金融政策がそれを証明している」
「イギリスでも最近まで金融政策の有効性を唱える人が多かったが、資金を供給しても実際には貸し出しは伸びない状況が続いており、懐疑的な見方も広がっている。この超低金利の継続という問題は二つの課題をひき起こしていると思う。一つは、金融政策と財政政策のバランスをもう一度考え直す必要があるという課題。もう一つは、大量に供給されるマネーが、過剰流動性としてさまざまなマーケットに大きな影響を与えるという課題。看過できない問題だと考えている」

佐藤会長が指摘するさまざまな問題。その一つが、まさに「国債バブル」であろう。佐藤氏は「過剰流動性について申し上げると、ある統計では、世界の資金量は足元で00年比約3倍超となっている一方、その間のグローバルなGDPの成長は2倍に留まっており、その差の部分が全く実態を伴わないマネーということになる」とも指摘している。
世界の中央銀行から過剰に供給された、流動性資金は国債に向かい、さらに穀物価格の高騰をはじめとする「商品バブル」をひき起こしつつある。干魃に苦しむ米国など世界的に異常気象が頻発していることも懸念材料となっている。実態を伴わないマネー供給の副作用が気掛かりだ。