米国の戦略石油備蓄放出検討に意見対立
米政府は17日、戦略石油備蓄の放出を検討していることを確認した。ただ放出の可能性をめぐっては、国際エネルギー機関(IEA)が放出する理由はないとの立場を示したほか、日韓両国も反対の立場とみられており、オバマ政権との見解の違いが際立っている。
IEAのファンデルフーフェン事務局長は、記者団に対し「データや現状に基づいて行動する。市場の供給は十分」との考えを示した。
ただ、英仏が放出の可能性を排除しない立場である一方、日韓政府当局者は放出する理由は見当たらないとの考えを示すなど、IEA加盟国内でも意見が対立している様子を伺わせた。
緊急時のみの厳格な備蓄利用を主張する立場と、原油価格押し下げや景気浮揚などの目的も認める柔軟利用を求める主張とが対立する格好となっている。
匿名の日本政府高官は「日本で石油が不足している状況にはない」とし、「備蓄放出は、原油高ではなく、供給不足の状況の際に行われるべきで、現在の供給は十分だ」と述べた。
韓国の政府関係者は「現在よりも原油高が進んでいた数カ月前でさえ放出が実施されなかったことを踏まえると、現在の価格水準で放出を支持するIEA加盟国はいないと思う」と明らかにした。
日韓両国は、米国の対イラン制裁措置を受けて、イラン産原油の輸入を大きく削減している。
一方、英エネルギー省はIEAに対し、原油高への対応を要請する用意があると明らかにしたが、備蓄放出については何も決定されていないとしている。
また仏大統領府関係者はロイターに対し「原油価格押し下げも含め、米国とあらゆる問題について協議しており、すべての選択肢を検討している」と明らかにした。
欧州諸国の一部では、原油高やユーロ安によるエネルギー価格上昇が景気回復の足かせになっており、景気浮揚策としての原油価格押し下げへの取り組みは、一定の支持を集める可能性がある。
関係筋が16日明らかにしたところによると、米政府が備蓄放出を検討している背景には、原油価格の上昇がイランに恩恵をもたらし、同国への制裁措置の効果が下がりかねないとの懸念がある。
欧州連合(EU)のイラン産原油の禁輸措置は7月1日に全面発効した。
米ホワイトハウスのアーネスト副報道官は、「戦略石油備蓄の放出は、検討に挙がっている選択肢の1つだ」と述べた。
ただIEAの全面的な支持が得られなくても、オバマ大統領が単独で放出に踏み切る用意があるかどうかは引き続き不透明だ。
ファンデルフーフェン事務局長は、米国の石油備蓄について、IEAが定める90日分の水準を上回っているとした上で、「それは米国の在庫であり、国内の事情により利用可能」とし、米国の単独放出を容認する考えを示した。
他のIEA加盟国が戦略備蓄の放出を検討しているかとの問いに対しては「ノー」と答えた。
現在の状況は、米主導で昨年、IEA設立以降3度目となる石油備蓄が放出された時と類似しているため、今年も実施される可能性があるとの見方も出ている。昨年の放出時には、リビアの内戦で同国の原油生産量が減少したことが背景にあったが、イランへの追加制裁による原油供給の減少分は日量100万バレル程度で、これはリビア内戦時の減少分にほぼ等しいという。また原油高の進行や経済協力開発機構(OECD)加盟国の景気減速が鮮明になっている点でも、昨年と似た状況にある。
米外交問題評議会のブレイク・クレイトン氏は「IEAメンバーが昨年、放出で合意が得られたのなら、今年も実施に向けた条件はそろっているように見える」と指摘した。
米国が備蓄放出を検討していると確認したことを受け、同日の原油先物相場で、北海ブレント先物は一時2%下落し、1バレル=113ドルを割り込んだ。その後は下げ渋り、113.71ドルで清算した。