変わるチャイナマネーのリスク(前編)

チャイナリスクの意味が、足元で変容しつつある。政治体制や法体系が主要7カ国(G7)と異なることで、直接投資に関連した多様なリスクの存在を意味してきたが、中国経済の変調が長期化する兆しが見え、中国経済が急ブレーキを踏むリスクが加わってきたようだ。

中国人民銀行は今年に入って2度の利下げを実施したが、貸出は伸びず金融緩和の効果が今のところ見えていない。もし、中国経済に成長ペースの段差が生じ始めているなら、世界経済にとっても大きな脅威になる。

 

日本貿易振興機構(ジェトロ)が20日に発表した日本の対中貿易に関する分析結果によると、12年1-6月の対中輸出は、ドル建て換算で前年比マイナス5.7%の737億1942万ドルとなり、上半期としては09年以来、3年ぶりに減少した。

ジェトロによると、中国経済の減速に伴う中国国内の需要の伸び悩みにより、一般機械、鉄鋼など原材料の輸出が一部品目を除いて減少した。12年通年の対中輸出について、ジェトロは減少が続くと予想している。その理由として、中国政府は金融緩和に向けた動きを活発化させているが、4兆元の大型景気刺激策にみられた大規模な需要創出策には慎重である点を指摘。このため景気対策に伴う需要増は限定的で、中国国内の工業生産も伸び悩みが続くと指摘している。

 

足元での中国経済指標は、調整が長期化する可能性をうかがわせる結果が多くなっている。中国税関当局が10日に発表した7月貿易統計で、7月輸出は前月の前年比プラス11.3%から同1.0%へと急ブレーキを踏んだ。

中国国内では、多様な分野で在庫が積み上がっているとの断片的な情報があるものの、マクロ統計上は需要不振と在庫の急速な積み上がりをはっきりと確認できない。ただ、7月の中国電力消費量は前年比プラス4.5%となっており、8%台の成長軌道を走っていると仮定すると、かなり不整合なデータとなっている。特に重工業向けは同2.4%と小幅な伸びにとどまり、鉄鋼や化学などの生産に頭打ちの傾向が出ているのではないかと懸念される。

さらに気になるのは、金融緩和政策の効果があまり出ていない可能性を示すデータだ。中国人民銀行が10日に公表した7月の人民元建て資金融資は、前月の9198億元から5401億元へと大幅に減少。市場の事前予想の6900億元も下回った。

このデータはパズリングだ。中国人民銀行は今年に入って2回の利下げを実施。昨年11月から合計3回の預金準備率引き下げも行ってきた。利下げにより、銀行融資は増加すると当局は予想していたに違いない。しかし、現実には銀行融資は盛り上がりを見せていない。

 
(後編へ続く)